説明会を開くPayPayの柳瀬将良執行役員(21日午前、東京・港)

スマートフォン決済のPayPayは給与をデジタルマネーで払う事業に参入するのを機に法人事業へ本格進出する。中小企業に狙いを定め、労務管理ソフト「勘定奉行」を手掛けるオービックビジネスコンサルタント(OBC)と提携した。手数料無料で契約企業を囲い込み、法人でも融資やサービスを通じた経済圏作りを目指す。

「PayPayはデジタルのお財布になる。そのためにも企業側にコスト負担をかけずに制度対応へのハードルを下げる」。PayPayの柳瀬将良執行役員は21日に開いたメディア向け説明会で強調した。

デジタルマネーの給与振り込みは契約企業との距離を縮める工夫を凝らした。

具体的にはPayPayが契約した従業員用のバーチャル口座をPayPay銀行に作ることで、従業員が新たにユーザーIDや電話番号を登録しないで済む仕組みだ。それぞれの企業がシステム対応する必要もなく、事務負担を省略できる。

従業員は自分のスマートフォンのアプリに給与が振り込まれるが、自ら口座を開設する必要はない。振込用に付された口座を通じて、企業から給与を受け取ったPayPay銀行が自動的に振り込む。

さらに労務管理ソフト「奉行シリーズ」を提供するOBCと提携し、中小企業向けに導入を促す。ソフトにPayPayの機能を追加してもらい、従業員が口座を登録すれば、簡単に受け取れるようにする。2025年春にサービス提供を始める予定だ。

OBCの労務管理ソフトを利用すれば、人事担当者が口座収集を呼びかけたりする事務を省略できる。PayPayの柳瀬氏は「従業員一人ひとりが手で入力する手間が省ける」とも説明した。

法人を囲い込むため、PayPayは同日、導入企業がグループのPayPay銀行に口座を開設することを条件に振込手数料を無料にすると発表した。デジタル給与の導入で二重に手数料が発生する不具合を解消する狙いだが、法人口座の獲得につなげる思惑がある。

PayPayが銀行口座を使って内部管理を肩代わりするため、金融機関同士で送金する必要もない。本来なら金融機関間でかかっていた手数料が不要になる。デジタル給与振り込みでなるべく手間もコストもかからないようにするのは、未開拓の法人顧客を開拓するためだ。

PayPayの利用者は6500万人超で、すべて個人だ。法人はPayPayカードも含め決済端末を置いてくれた加盟店企業。推定で1000万カ所あり、PayPayは法人向けのサービスもそろえてきた。今年3月、加盟店向けに将来の売り上げを予測して資金を供給する与信サービスを始めた。

グループのPayPay銀行でも中小企業向け融資を提供できる体制を整えているが、法人口座は25万件に過ぎない。3月末の貸出金は7千億円を超え、3年前と比べ約3倍に増えた。その大半は個人向けの住宅ローンとカードローンだ。法人向けローンは個人事業主やスタートアップ企業向けが多く、一件1000万円未満が多い。今後は運転資金などで1000万円以上の比較的大型の資金需要を獲得できる可能性が出てくる。

帝国データバンクの2023年の全国企業「メインバンク」動向調査によると、PayPay銀行のメインバンク数は974社。ネット銀行において楽天銀行に次ぐ2位だが、メガバンクや地銀には及ばない。業界でいち早くデジタル給与の事業者として指定獲得を急いだのは、大企業の経理部門や経営陣と接点を持つことができるとの読みもある。法人版のPayPay経済圏をつくる土台作りと言える。(四方雅之)

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