日銀の植田和男総裁が23日、衆参両院で開かれる閉会中審査に出席する。日銀は7月末の金融政策決定会合で政策金利を0.25%へと引き上げたが、その後株式相場や為替相場が乱高下した。閉会中審査では国会議員が市場の反応への見方や、追加利上げの家計や企業への影響などを尋ねる見通しで、植田総裁の答弁に注目が集まる。
閉会中審査とは国会が閉会している間、必要に応じて重要な案件を審査するために開くものだ。金融市場の波乱を受けて与野党が開催を決めた。鈴木俊一財務相も出席する。
国立国会図書館のデータベースによると、日銀総裁が閉会中審査に出席するのは、2015年11月に黒田東彦前総裁が参院の予算委員会に出席して以来、約9年ぶりだ。異次元緩和の開始から2年以上過ぎたタイミングで、2%物価目標の達成が遅れる理由を問われた。白川方明元総裁は4回、福井俊彦元総裁も3回出席している。
これまで植田総裁の発言のたびに市場は大きく動いてきた。7月末の決定会合後の記者会見で、政策金利の水準で「0.5%は壁として意識していない」と述べ、利上げ継続を示唆した。7月利上げを織り込んでいた市場参加者は少なく「サプライズ色の強い利上げだった」(市場関係者)。
7月中旬に1ドル=161円台をつけた円相場は8月5日、一時1ドル=141円台まで円高が進んだ。7月の米国の雇用統計が予想外に悪化して米国株が急落したことも連動し、日経平均株価は5日に過去最大の下げ(4451円安)を記録した。
マイナス金利を解除した3月会合後の記者会見では追加利上げを示唆する一方、「緩和的な金融環境は続く」と述べた。市場は日米金利差を意識し、3月27日には一時、1ドル=151円90銭台と約34年ぶりの円安水準まで円が売られた。
4月会合後の会見では「円安による基調的な物価上昇率への影響は無視できる範囲だったか」と問われた植田総裁が「はい」と答える一幕があった。円安を容認していると受け止められ、会見の最中にもかかわらず円安が進行した。
岸田文雄首相は5月7日に植田総裁と官邸で面会。政治方面では行き過ぎた円安への懸念が強まった。植田総裁はその後の発信で円安による物価の上振れリスクに言及するなど軌道修正した経緯がある。
7月会合後の記者会見で植田総裁は、金融正常化に前向きな発言に終始した。「過度な円安を阻止する面があったことは否めない」(日銀関係者)。足元の円相場は1ドル=145円前後で推移し、株価は3万8000円台を回復した。
「相場の変動は避けたいが、市場に合わせて言うことを都度変えるのは好ましくない」。日銀関係者は閉会中審査を前にこう語る。別の関係者は「7月会合で説明した追加利上げへの考え方は変わっていない。物価や経済のデータ次第だときちんと説明する必要がある」と話す。
日銀の内田真一副総裁は8月7日、今後の追加利上げについて物価や金融情勢を踏まえ「慎重に考えるべき要素が生じている」と述べた。内田氏の発言は不安定な市場の沈静化を優先したものとみられる。
その一方で内田氏の講演資料には、7月末会合後に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の物価見通しがそのまま引用された。「利上げしないと言っているわけではない」(日銀関係者)。閉会中審査では内田副総裁と、植田総裁の発言内容との整合性にも焦点が当たりそうだ。
日本時間23日夜には経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が講演を予定する。植田総裁は23年には出席したが、今回は2人の副総裁含め出席を予定していない。
関係者によると、植田総裁は閉会中審査への出席が決まる前から今年のジャクソンホールは出ない見通しとなっていた。「プログラム上、今回は参加の必要がないと判断した」(日銀関係者)ようだ。
ジャクソンホールは学識経験者も多く集い、過去には主要国の金融政策運営が同会議と連動して動くような場面もあった。近年では黒田前総裁が21年、出席しなかった。
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