生成人工知能(AI)を教育の現場で活用する動きが加速している。文部科学省や学習サービス大手が、教育の質の向上や、人手不足への対応に役立てようと導入にかじを切る。一方で、教育関係者らは生成AI技術の進化で誤情報が拡散されるリスクにも直面する。子供たちの考える力を奪うといった問題点にも注意を払う必要があり、活用のあり方を模索している。

学研ホールディングス(HD)子会社の学研メソッドは小中学生向けのオンライン学習システムに生成AIを搭載している。

「数学のグラフの理解度が10%も上昇しているんだ。本当にすごいね」

児童・生徒の学習状況に合わせて、やる気を引き出す励ましのメッセージが生成AIによって作成される。昨年7月の導入以降、子供たちの学習時間が伸びる効果が表れているといい、学研メソッド取締役の中村寿志氏は「今後もさまざまなサービス展開を検討している」と積極的だ。

モデル校の授業や問題作成にも活用

文部科学省は昨年7月公表の指針で、生成AIの短所と長所を列挙し、「限定的な利用から始めるのが適切」との考え方を示した。全国で約50のモデル校を指定、課題や効果を蓄積する。

モデル校のひとつ、宮城県岩沼市立岩沼北中学校では昨年末、1~3年生の計208人を対象に、生成AIの利便性や注意点を解説した後、生徒たちがサイトの編集者になった前提で、対話型生成AI「チャットGPT」を使って記事を作成する授業を行った。生徒からは「チャットGPTも間違えることを理解して利用したい」などの感想があったという。

伊藤将人教諭は「生成AIを活用する力は変化の激しい情報社会を生き抜くために必要な資質・能力になる。どう活用していくことが生徒にとって有益なのか考えたい」とした。

一方で、教育現場では、生成AIには考える力を奪うリスクや、回答に間違いが含まれていることなどの問題が懸念されている。

今年2月には、東京都内の中学校で理科の課題を出したところ、生成AIが〝誤答〟したため、同じ間違いをする生徒が続出したことが、交流サイト(SNS)に投稿され、話題になった。

原因は検索サイトの生成AIがキユーピーのサイトの文章を抜きとって誤解を招く表示をしたためといい、事態を把握した同社は文章を修正。担当者は「専門家の監修を受けてサイトを作ったが、生成AIに一部が抜き出されることは想定していなかった」とあかした。

しかし、少子化によって市場の縮小が避けられない教育業界にとって、AIを活用して教育の質と省力化を両立することは不可欠だ。

オンライン学習サービス「スタディサプリ」を運営するリクルートでは演習問題などの作成に生成AIを活用する。問題作成者の業務時間が最大5割、コストは9割削減できたという。

同社は近く学校の教諭向けに生成AIを問題作成に活用できるサービスを提供予定で、担当する同社の池田脩太郎氏は「(児童・生徒の学習に)AIを使う上で注意しなければならないのは、正しい情報を届けることだ」と強調した。

世界各国がガイドラインを策定

教育現場で生成AIをどのように活用するのか。世界各国でガイドラインの策定へ向けた動きが進んでいる。

昨年7月に初等中等教育での暫定的なガイドラインを策定した日本。生徒に対し、「生成AIの性質や限界を気づかせる」や「足りない視点を見つけて議論を深める」などの目的での活用を検討するとしている。

一方、大学や高専での利用については「各大学・高専の教育実態に応じて検討することが重要」として各教育機関の自主性を重視する方針を示している。

米国では2023年5月に生成AIに関する政策リポートが公表された。生成AIによって生徒の能力や性質に合わせた教育が可能になるメリットを挙げつつ、「常に教育者を中心とする必要がある」と指摘。AIが教師にとってかわるものではないとの見方を示している。その上で教育に特化したガイドラインの策定を提言している。

英国教育省は23年3月に生成AIに関する声明を発表。「生成AIを扱うには知識が必要」として、生徒に生成AIを活用するスキルを身に付けさせる重要性に言及した。また、子供が生成AIを通じて不適切なコンテンツにアクセスしたり、作成したりできないように学校側が配慮する必要性も指摘している。

AIは非常に効率のいいツールも人による質の担保必要 近畿大情報学部 山元翔准教授

生成AIは学習において非常に効率のいいツールになり得る。ただ、人は怠惰な側面があるので、AIを使って楽をしようとして自分の頭で考えなくなる人も出てくるというリスクがある。これはAIに限らず、インターネットやスマートフォンの発達でも同じことが起きていた。つまり、重要なのはうまく使えるかどうかだ。

近畿大情報学部の山元翔准教授(近畿大提供)

教育現場で生成AIの活用が広がれば、あまねく人たちが等しく教育を受けられる。各生徒に合わせてマンツーマンで指導することは人員の問題から教師には不可能だが、AIなら可能だ。ただし、回答の精度が100%ではないことに留意しなければならない。どういう使い方をすると失敗してしまうのかを学ぶことも重要だ。

また、何でもAIが回答してしまう「教えすぎ」の問題にも注意しないといけない。子供が自分で答えにたどり着ける一歩手前まで教えるという調整が必要になる。教師の負担を減らすために採点や資料作りに活用するのもいいが、まだ人が携わって質を担保する必要があるだろう。(桑島浩任)

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