水道の健全経営を22年後の2046年度まで維持するには、料金を全国平均で現状の約1.5倍にする必要があることが、民間研究グループの試算で分かった。人口減に伴う料金収入の減少や老朽化した給水設備の工事により、ほとんどの地域で値上げが避けられない。料金の地域間格差の拡大も予想され、調査担当者は「日本で安全な飲み水が得られなくなる地域が出るかもしれない」と警鐘を鳴らす。(鈴木太郎)

 水道料金の仕組み 一般的に、メーターの口径などに応じて契約者が等しく負担する「基本料金」と、ある一定以上の水量から使用量に応じて負担する「従量料金」からなる。人件費や動力費、施設修繕費などの費用は原則、料金収入で賄う「独立採算制」がとられる。多くは市町村が経営し、複数の自治体が設立した企業団や県が経営する地域もある。

◆「健全経営に値上げ必要だが…」

 首都圏の1都6県では、人口密度の低い千葉県南部や茨城県北部、埼玉県西部などで必要な値上げ率が高くなった。うち茨城県北茨城市は1カ月に20立方メートルを使う標準的な世帯で、46年度の料金が現状の2.5倍の約9000円と試算された。市の担当者は「厳しい数字だが、単純な収支だけを考えれば、あり得ない額ではない」と危機感を募らせる。  同市は18年に平均で約18%の値上げをした。しかし22年時点の想定では、28年に支出が収入を上回り始め、その後は赤字が続く見込みだ。「(累積赤字が出ない)健全経営には常に値上げの議論は必要だが、物価高の中、市民感情を考えると簡単には踏み切れない」。当面、一部業務の民間への委託や、水道設備の規模縮小を通して管理コストの軽減に努めるという。

◆最高値は福島・鏡石町1カ月2万5000円超予想

 調査は会計監査の「EYジャパン」(東京)などが担った。料金の全国平均は21年度の3317円が、46年度に4895円に上がる見通しだ。水道を経営する市区町村など1243団体のうち、96%で値上げが必要とされた。全国最高値は福島県鏡石町で、1カ月の料金が46年度に2万5837円になると推計。最安値1266円(静岡県長泉町)の約20倍で、21年度時点の8倍と比べ格差が大きく広がった。  21~46年度の期間、赤字転落した年に1度だけ値上げする想定で、累積赤字が出ない値上げ幅になるよう試算した。ただ直近に大規模工事をした団体では料金が大きく上振れするため、調査内容が現状を反映しない場合がある。  EYジャパンの関隆宏氏は、大幅な料金値上げ以外にも、近年激しさを増す災害への対策や、設備の管理を担う専門人材の不足も、水道を取り巻く大きな課題と指摘する。共同研究した一般社団法人「水の安全保障戦略機構」の桑原清子氏は「水へのアクセスの危機は決して海の向こうの話ではない」と強調している。   ◇  ◇

◆近隣自治体と経営効率化の動き加速

 水道の苦しい経営状況を打開しようと、近隣自治体との経営統合や連携で、経営を効率化する市区町村が増えている。管理コストの削減や、限られた職員の集約による専門技術の継承の効果が期待されるが、自治体間の調整に手間がかかり、思うように進まない地域もある。  2046年に1万7000円超と、首都圏で最も水道代が高くなると試算された千葉県大多喜(おおたき)町は近隣の3市町と、来年4月の水道事業統合に向け調整を進める。町担当者は「EYジャパンの試算は現状と異なる」としつつ、町単独の経営だと45年までに、現状の1.5倍の7376円まで上がると予測。ほかの3市町も人口減少や施設の老朽化が進行し、既に21年に支出が収入を上回っている。  事業統合後は、老朽化した施設の統廃合や、規模の小さい施設への更新を順次検討する。各市町で異なる料金は35年をめどに統一する方針だ。担当者は「単独経営を続けるよりは、料金上昇を抑えられそうだ」と期待する。  国は04年に作った「水道ビジョン」で、水道の経営強化策として、事業の広域化を推奨している。同年以降、首都圏では群馬県東部、埼玉県秩父地域などで経営統合が実現。しかし全国の上水道事業の94%が依然として市区町村単位の経営のままになっている。

◆料金格差大きい自治体同士は連携難しく

 全国の水道経営を研究する日本水道協会調査課の宮田義範課長は「経営統合は経費がかかる地域の分まで住民に料金負担を強いるため、料金格差が大きい市町村同士は一般的に進みにくい」と指摘する。完全な経営統合以外に、相談窓口や料金徴収など一部業務の共通化、設備更新工事の共同発注など地域の実情に沿った連携がみられるという。  しかし、こうした経営改善策があっても、EYジャパンはあくまで全体の値上げ率が抑えられるだけだと予測。宮田課長は「蛇口の水は無料ではなく、不断の努力でできている。浄水場や水道管は利用者の共有財産だという意識で利用してほしい」と呼びかける。 

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