日銀の調査では、金融政策に求めるものとして「為替市場の安定」と回答する企業も多かった

日銀が20日公表した調査によると、7割の企業が「物価と賃金がともに緩やかに上昇する状態」が好ましいと答えた。人手不足に伴う賃上げや価格転嫁の動きが広がり、物価・賃金の停滞からの転換を企業が受け入れている状況が示された。企業が急激な円安進行を懸念し、金融政策によって為替相場の安定を期待していることも分かった。

日銀の調査は1990年半ばからの過去25年の企業行動を振り返るもので、2023年11月〜24年2月ごろが調査期間だった。幅広い業種・規模の国内の非金融法人2509社に企業の事業方針や物価観、金融政策への考えなどを尋ねた。

過去を振り返ると、バブル崩壊やリーマン・ショック、新型コロナウイルス禍が企業による国内事業への姿勢を消極的にした。3割超の企業が「物価の低迷」を消極化の要因に挙げた。

調査の報告書は現状は「企業行動に大きな変化が生じている途上にある」と指摘した。8割以上の企業が「価格転嫁しやすくなっている」と回答した。理由について「値上げは仕方ないとの認識の広がり」が最も多く、全規模全産業で69%にのぼった。

9割程度の企業が賃上げ姿勢を「積極化している」と答えた。理由で最も多かったのは人手確保の懸念だ。正規労働者のベースアップの伸び悩みを指摘した企業は1990年代半ば〜2000年代ごろは79%に上ったが、直近では47%に下がった。

金融政策に求めるものとして、大・中堅企業の製造業では「為替市場の安定」の回答が最も多く、76%に達した。これは日銀の所管ではないが、日銀の使命である「物価の安定」(同56%)よりも回答数が多く、企業の関心の高さが伺えた。

金融緩和の効果と副作用については9割程度の企業が効果を実感していると答えた。具体例では「借入金利の低下」が最も多かった。

一方で7割の企業が副作用を実感していると答えた。具体的には「為替相場の動向」と答えた企業が大・中堅企業の製造業で48%に上り、最大だった。「企業の新陳代謝の停滞」を指摘する声も企業規模を問わず2割程度あった。

円安により、原材料高や外国人労働者の採用の難しさを実感する声も聞かれた。

為替相場の変動に伴う価格転嫁は引き続き焦点となっている。直近では円安要因の値上げが広がりつつある。

帝国データバンクの調査では、主要な食品メーカー195社の飲食料品で5月に値上げする品目数は417に達する。平均の値上げ率は31%で、22年の調査開始以来、単月としては過去最高となった。原材料高や物流費の上昇といった従来の要因に加え、円安が値上げ率を押し上げている。

「円安」が理由の値上げ品目は24年に全体の28.9%を占めるようになり、23年通年(11.4%)から急増している。円安が長期化したり、一段と進行したりした場合は「今秋にも円安を反映した値上げラッシュの発生が想定される」(帝国データバンク)。

日銀は円安による値上げは一時的との立場を基本としている。一方で企業がコスト高をモノやサービスの価格に転嫁する動きが広がるなかで「過去と比べ、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」(植田和男総裁)とみている。

(王楽君)

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