マンションの価格動向の実態に迫ります(写真:メディナス/PIXTA)

都心のタワーマンションの価格上昇が止まらない。2023年は坪単価1000万円(100㎡で3億円)以上の好立地新築物件、具体的には、三田ガーデンヒルズとワールドタワーレジデンスの売れ行きが大きく取り沙汰され、完売した。

この勢いで「そろそろ天井か?」と思われていた価格が天井を突き破り、都心では1戸1億円、好立地では坪1000万円も常態化してきた。2023年は首都圏マンション市場の常識破りの年となったのだ。

中古の価格も「ツレ高」に

こうした新築価格の影響で、中古価格がツレ高になっている。新築時にそれなりに高いと思われていた物件が竣工したときには大幅上昇し、転売され、成約しているのだ。

実例を紹介しよう。2021年9月竣工のブランズタワー芝浦の中古成約価格は新築時価格の135%となっている。同様にして、2022年11月竣工のプレミストタワー白金高輪が新築時の126%、2022年12月竣工の白金ザ・スカイが同134%、2023年1月竣工のプラウドタワー芝浦は早くも118%となっている。

これらを平均しても134%で、たとえ譲渡益に税金がかかっても手残りで2割の現金を手に入れることができた計算になる。新築時価格が既に1億円を超えていたので、2000万~3000万円の純利益になる。短期間でのこの値上がり幅は尋常ではない。

前述の三田ガーデンヒルズとワールドタワーレジデンスのように、「都心・駅近・タワー・大規模・ファミリータイプ」は資産価値が高い。マンションの資産性が取り沙汰されるタイミングは価格の上がり方が早いときに集中しやすい。

2013年のアベノミクスによる金融緩和がその第1弾で、コロナ禍の「もう1部屋需要」が第2弾、今回の好立地の新築高額大規模物件が第3弾で、この11年の間に3段ロケットのような効果があったと考えられる。

2024年3月時点の中古マンション単価は、2012年平均と比較して、都心3区で240%、東京都で204%、首都圏全域で199%となり、ほぼ2倍に値上がりした。首都圏では山手線から放射線状に鉄道が延びており、都心3区(千代田区、中央区、港区)にオフィスの半分が集中するために、駅ごとに相場上昇率が大きく異なるということにはならない。相場が上昇するときは、どこでも同じように上昇するのだ。

局地的に価格が上がるのは駅前大規模再開発と新駅

例外として局地的に価格が上がるのは、駅前大規模再開発と新線・新駅だ。麻布台ヒルズは、神谷町駅と六本木一丁目駅を地下で直接つないでいるのと、200億円以上という最上階のペントハウスが話題を呼んだ。最近はこれに加えて、「都心・駅近・タワー・大規模・ファミリータイプ」の好立地新築が出てくると周辺相場を押し上げる。

都心の話をしてきたが、それ以外のエリアとの比較で市場を正確に理解しておこう。

不動産会社が共有している成約データを集計した結果はレインズタワーというサイトでデータが公開されており、都心3区、東京都、首都圏というエリア区分で集計されている。2023年に相場の天井が抜けたので、2022年の月次平均値と直近の半年(2023年10月~2024年3月)の平均を比較してみる。

都心3区の成約件数は14%増え、在庫件数は6%減っている。在庫件数に対する成約件数は2013年以降の平均で6.3%であり、平均成約期間が3カ月であることを考えると、売り出された物件の20%程度しか成約に至っていない。それでも在庫が相対的に少ないので、売り出される在庫価格は高く、成約価格は在庫価格の86%にすぎない。

つまり、物件検索サイトに載っている売り出し価格は成約ベースの2~3割高く設定されており、高値つかみする客を気長に探していると考えられる。とはいえ、割高な価格設定の物件ばかりの中では割安に買うことはしにくく、仕方なく割高と知りながら成約する事例も多い。この結果、以前の成約件数よりも25%も増えている。

東京都全域で見ると話が変わる

これが郊外を含めた東京都全域で見ると話が変わってくる。成約件数は以前より10%増えたが、在庫件数も11%増えている。在庫が相対的に多い中、成約価格は在庫価格の101%となり、成約のほうが高くなる。

在庫価格より高くなるのは、好立地で高価格な物件のほうが成約することを意味している。相場が上がったから売りに出してみたものの、立地の悪い物件は見向きもされていない可能性が高い。都心3区はどこも好立地だが、東京都全域ではそうとはかぎらないところも多くなる。

首都圏全体になるとその傾向がさらに顕著になる。成約件数は以前より7%増えたが、在庫件数は22%も増えている。在庫が増えた分、在庫に対する成約件数の割合は9%程減り、売れ行きは悪い。そんな中、成約価格は在庫価格の104%となり、成約のほうが一層高くなる。

これは立地の選り好みが東京都よりもさらに進んでいることを示している。マンションは「1に立地、2に立地」なので、相場が上昇しても、その商品力は立地次第なのだ。

ここまで見てくると、都心のほうが値上がりしやすく、在庫がはけやすく思うかもしれない。

だが、これは金融緩和下の直近11年の話でしかない。この間は、基本的な市場環境が変わらずにきた結果である。それ以前は、リーマンショックのような金融危機があり、その際には都心の在庫は急増し、価格は相対的に安く、売れ行きが悪かった。

都心がいつでも順風満帆ということではないことは承知しておこう。ちなみに、その際の在庫件数に対する成約件数は3.0%に過ぎず、2013年以降の平均6.3%の半分以下の売れ行きだった。

突然、風向きが変わることがあるので要注意

不動産の場合、その風向きが突然変わるので注意しておく必要がある。過去にも、消費税率の改定前に駆け込み需要が発生し、その後に需要が大きく反動減したことがある。これまでの11年が一本調子だけに、正直なところ、そんなタイミングがそろそろあってもいいと思っている。そうなると、買い手が少なくなり、売れ行きが悪いときは「絶好の買い場」になる。

その際には好立地の物件でも売れ残ることが多い。実際、リーマンショック後に売り出したパークコート麻布十番ザ・タワーやパークタワーグランスカイなど、最寄り駅周辺では好立地のランドマーク物件でもさっぱり売れなかった過去がある。

そういうときほど、マンションの資産性の原則に立ち返って物件を検討してほしい。それは、「都心・駅近・タワー・大規模・ファミリータイプ」であり、「1に立地、2に立地」なのである。売れ行きや在庫は変動するが、資産性の法則は変わることはなく、再現性が高いということだ。

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