「あれは僕の、僕たちの青春だった」。バラエティー番組「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)などを手掛けた放送作家、鈴木おさむさん(52)の小説「もう明日が待っている」(文芸春秋)には、SMAPが国民的スターとなり、同番組で〝謝罪放送〟を行って解散するまでの道程がつづられている。鈴木さんは「興味を持っている人がいるうちに、ど真ん中にいた自分が書くべきだと思った」と執筆の動機を語り、「あの時から、芸能界の大きな変化は始まった」と振り返った。
登場人物の名前変え
平成28年1月、SMAPの解散が報じられ、同月18日の同番組にはメンバー5人が生放送で出演。沈鬱な面持ちで、世間を騒がしたことを謝罪した。解散を否定して活動の継続を宣言する内容だったが、多くの視聴者は、ジャニーズ事務所から独立しようとしたメンバーを〝悪者〟としてさらし上げるために生放送が行われたと考えた。この謝罪放送は、現在に至るまで「公開処刑のようだった」と問題視されている。
その裏側も「覚悟を持って書いた」と鈴木さんは話す。まるで実録本のようなリアリティーだが、「あくまで僕から見た物語だし、書きたくないところは省いている。だから小説なんだ」と説明。登場人物の名前も多少変えた。
面白おかしく20年超
SMAPは平成3年にデビューし、その5年後に同番組はスタートした。同書はメンバーに焦点を当てるだけでなく、スタッフが番組を盛り上げるために力を尽くしたことも、面白おかしく描かれる。
世界的スターを出演させようと、無理を重ねたこと。旅ロケでメンバー5人の目的地を誘導するため、コンビニエンスストアにあった旅雑誌を全て買い取って、中身を張り替える仕掛けをしたこと…。「テレビ史を大きく変えたSMAPと、それを支えた仲間たちのことを残したかった」。それはテレビ業界の輝ける日々だった。
「でも、20年以上かけて築き上げてきたものは、一夜にして崩れていった」と振り返る。旧ジャニーズ事務所トップの意向を色濃く反映し、番組に携わった誰もが望んでいなかったという生放送。「あの謝罪放送を見て、傷ついたのはファンだけじゃない。世の中全体が『これ、何か変じゃないか』と絶対思ったはず」。そして、「そこで生まれた違和感が、今の芸能界につながる大きな変化の入り口だったんじゃないかな」とつぶやく。
それから8年後の昨年、旧ジャニーズ事務所は故ジャニー喜多川元社長によるタレントへの性加害を認めて謝罪し、ジャニーズブランドは消滅した。芸能事務所とテレビ局との癒着などの問題も、明るみに出始めている。
第2の青春を探しに
謝罪放送の7カ月後、グループの解散が発表された。メンバー5人もスタッフも、現在はそれぞれの道を歩む。
テレビ業界が大好きだった。エンターテインメントに携わる人々の「狂気としかいえないような情熱」を愛していた。だが、SMAPの解散後、「仕事に対してスイッチが入りにくくなっている」ことを自覚。「このままやっていていいのか」と悩み、今年3月末で放送作家と脚本業からの引退を発表した。
これからは「ベンチャーファンドを立ち上げ、スタートアップを応援する仕事をはじめる」と笑顔で語る。今後のテレビ業界は、コンプライアンス(法令順守)が厳しく言われるようになり、番組作りへかける予算も減らされていくことで、〝面白い人〟たちが活躍できる場が少なくなっていくとみる。
「昔のテレビマンは、自分の成功だけを求めていた。そこにコンプライアンスはなく、代わりにあるのは売れるか、売れないかだけだった」と懐かしむ。
「その狂気に似た情熱を、今の若手起業家に感じている。第2の青春を探しに行こうと思う」
(三宅令)
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