ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン Frank May/dpa via Reuters Connect

<世界的な注目をきっかけに政府は韓国文学の普及を目指そうとしているが......>

ノーベル文学賞をアジアの女性として初めて受賞した韓国の作家ハン・ガン(漢江)。韓国では政府も挙げて受賞を祝い、これを機にK-POP同様に韓国文学をK-BOOKとして世界に発信していこうと盛り上がっている。そんなおり、ハン・ガンの作品が教科書などの教育分野で34件も掲載されているのに、著作権料が1ウォンも支払われていないことが明らかになった。韓国メディア韓国日報、イーデイリー、トップスターニュースなどが報じた。

「作家の連絡先が分からない」

この問題は、韓国の野党・祖国革新党のキム·ジェウォン議員が指摘して明るみに出た。それによると、教育目的で使われた著作権に対する補償金支給を担当する韓国文学芸術著作権協会(文著協)が提出した資料には、ハン・ガンの作品使用事例として少なくとも34件(教科書11件、授業目的4件、授業支援目的19件)を指摘している。

これだけの作品が使用されながら、著作権料がまったく支払われていなかった理由として文著協は「補償金分配のためには権利者の個人情報と受領同意が必要で、2017年から出版社を通じて補償金受領について案内してきた」としながら「ハン・ガン氏の連絡先が分からなかった」と釈明した。また補償金がいくらになるのかについては「個人情報なので具体的な金額を公開できない」と述べるに留まった。

5年以上受け取らなければ協会が使用可能

当然ながらこの著作権料の未払いで被害を被ったのは、ハン・ガンだけではなかった。 最近10年間(2014〜23年)支給されなかった補償金は合計104億8,700万ウォン(約11億5000万円)に達すると見積もられている。実に毎年約10億ウォン(約1億1000万円)の補償金が著作者に支払われないまま協会に積み立てられているという。

原因としては不合理な補償手続きが大きいという。韓国の著作権法では、教科書に掲載される著作物の場合、文化体育観光部(日本の文科省に相当)が指定した補償金受領団体(今回問題となった文著協)を通じて、出版後に著作権者に補償することになっている。出版社から著作権料を先に徴収し、それを後から著作権者に分配する仕組みだ。

このシステムでは補償金を受け取るためには作家自らが直接申請しなければ保証金を受け取れない可能性が高い。とはいえ、自分の作品が使われたかどうかを把握するのは難しく、大部分が受領できないため不合理なシステムだという指摘が出ている。

実際、『韓国が嫌いで』などのヒット作で知られる人気作家チャン·ガンミョンは、フェイスブックに「自分の文章が教科書に載せられたということを著者がこのように後になってから知っている現状がおかしい」と投稿。「著者が申請しなければ著作権料を支払わない慣例は不条理だ」と指摘した。


作家チャン・ガンミョンが補償金未払いについてFacebookに投稿した内容

5年経過すると支払わなくてもいい?

さらに問題なのは、この受領されないまま宙に浮いた補償金は5年が過ぎれば、文著協が文化体育観光部の承認の下に公益目的で使用が可能になっているという点だ。このシステムを利用する形で文著協が使った補償金は約138億ウォン(約15億円)にのぼり、内訳は△補償金分配システム改善に25億2,000万ウォン(約2億7500万円)△著作権使用実態調査に15億2,000万ウォン(約1億6000万円)△著作権者広報キャンペーンに7億4,000万ウォン(約8000万円)となっていることが分かった。

また、補償金の分配に消極的な文著協が、自分たちの収入を増やす徴収にだけ気を使っているという指摘も出ている。文氏協は8月、著作権信託管理手数料に対する徴収対象を教科書以外にも広げる規則改正計画を知らせるパブリックコメントの手続きに入っている。 改正案によると、文著協が管理手数料を賦課できる対象は8件から17件まで拡大する可能性があり、このままでは著作権者への保証金未払い問題が更に拡大する可能性も否定できない。

今回の問題を指摘したキム議員は「ハン・ガンさんの連絡先が分からなくて著作権料を支給しなかったという文著協の釈明は非常に荒唐無稽だ。著作権補償金は作家たちの権利を保護し創作活動を支援するための制度だが、文著協がこれを疎かにしたまま自分たちの収益増大だけに重点を置くことは深刻な問題」として「著作権者たちが正当な代価を受けられるよう即刻措置が必要だ」と話している。

今回問題となった文著協を管轄する韓国文化体育観光部は、ハン・ガンのノーベル賞受賞を契機として韓国文学の普及を図ろうと10月15日、当初計画になかった「韓国文学海外進出拡大方案を模索する」という題名の資料を緊急に発表して翻訳者育成を加速させようとしているが、翻訳者の育成以前に作家たちへの正当な支払をやるべきではないだろうか。

【動画】ハン・ガン、自作を読む


初期の詩「ヒョへ。「2002.冬」」と「大丈夫」をハン・ガン自ら朗読した2005年の動画。 KBS News / YouTube

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