ネットフリックスのドラマ「極悪女王」に出演の(左から)剛力彩芽さん、ゆりやんレトリィバァさん、唐田えりかさん=大阪市中央区で2024年9月18日、村田貴司撮影
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 かつて日本中を熱狂させた女子プロレスブーム。1980年代、長与千種さんとライオネス飛鳥さんがタッグを組んだ「クラッシュ・ギャルズ」はアイドル的な人気を誇った。その宿敵として立ちはだかったのが、女子プロ史上「最高の悪役」と呼ばれたダンプ松本さん。なぜ彼女はヒール(悪役)を貫いたのか。ネットフリックスで9月から配信が始まったドラマ「極悪女王」は3人の知られざる友情を交えつつ、その秘密に迫る。【谷口豪】

女子プロに憧れた少女が「悪」の道へ

 放送作家として数々の人気番組を手がけた鈴木おさむさんが企画・プロデュースと脚本を手がけ、映画監督の白石和彌さんが総監督を務めた。実話を基にしたフィクションで、主人公のダンプ松本さんをお笑い芸人のゆりやんレトリィバァさん、長与千種さんを唐田えりかさん、ライオネス飛鳥さんを剛力彩芽さんが体当たりで演じている。

 家計が苦しく、父親が暴力を振るう家庭に育った松本香の心のよりどころは、女子プロを見ることだった。高校卒業後、憧れの世界に入ったものの、なかなか芽が出ない一方、親友で同期の千種と飛鳥は着実にスター街道を歩んでいた。焦りと嫉妬心にさいなまれた香はレスラーとして生き残るため、「ダンプ松本」として、全国のプロレスファンを敵に回す「悪」の道を突き進むことを決意する。

主演のゆりやんレトリィバァさん=大阪市中央区で2024年9月18日、村田貴司撮影
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減量からの増量

 ゆりやんさんは2020年、本作のオーディションに合格した。当時は110キロあった体重を数年かけて65キロに落としたころだった。再び増量することに、健康面から不安が頭をよぎったという。トレーナーらのサポートで筋力を付け、体作りをした。「挑戦に一切の後悔はありません。命を削って、魂を燃やして、全員で一つのことに向き合えたことは最高の体験でした」と力を込める。

 唐田さん、剛力さんも肉体改造に励み、週3回のトレーニングと週2回のプロレス練習で、ともに10キロ増量した。次第に率先してやりたい技の練習をするようになるなど、プロレスにのめり込んだという。

役を自分に重ねながら

 ゆりやんさんは「自分が本来やりたかったプロレスができなかった香が、ダンプ松本として『帰れコール』を浴びた時、初めてスポットライトが当たった。『ここで生きていくしかないんだ』と覚悟を決めたその瞬間は、自分と重なりました」と語る。

 13年に吉本総合芸能学院(NSC)を首席で卒業。17年に女性芸人のお笑いコンテスト「THE W」で優勝するなど一見、順風満帆に見えるが、そうではないという。「苦労していないように思われるけど、『なんでこんなに頑張っているのにうまくいかないんだろう』と人のせいにしてしまうこともあります。劇中でダンプさんが『どいつもこいつもバカにしやがって!』って吐き出すつらい気持ちはめっちゃ分かりますし、誰に何を言われても、『この道を進む』と決めたその姿には、尊敬しかありません」と話す。

唐田えりかさん=大阪市中央区で2024年9月18日、村田貴司撮影
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 千種も両親に捨てられ、親戚の家をたらい回しにされた過去を持つ。「成り上がりたい」とプロレスの門をたたいた彼女を、唐田さんは「雑草のような人」だと表現する。「自分の力で立ち上がるしかなかった。強くならざるを得なかったその生きざまを知るうちに、役を超えて自分自身の言葉としてセリフが言えるようになりました」。撮影が進むにつれて、自分たち3人の成長物語だと感じ、ラストカットでは自然と涙があふれたという。

 一方、剛力さんは飛鳥を「孤高の天才」と考える。「彼女は真っすぐにプロレスがしたいけど、レコードを出すなど芸能活動もしないといけない。そこにダンプ松本の存在もあって、自分がやりたいプロレスはできなくなった。その葛藤や、孤独感に共感しました」と語る。中でも「千種を守りたい」という気持ちを飛鳥の中に感じ、強い人だと思いながら演じたという。

伝説の「敗者髪切りデスマッチ」

 試合のシーンなど殴ったり投げられたりのアクションはほぼ自分たちでしている。終盤、ダンプ松本と長与千種による伝説の「敗者髪切りデスマッチ」のシーンで、唐田さんは実際に丸刈りになった。「一発で成功させないといけないという緊張感と怖さから、気を抜けば逃げてしまいそうな自分が一瞬、出てきた」と明かす。

剛力彩芽さん=大阪市中央区で2024年9月18日、村田貴司撮影
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 リングサイドから見守った剛力さんにとっても思い出深いシーンとなった。「2人を見ていたら自然と涙があふれた。純粋に『千種を守る』という気持ちになり、心から『クラッシュ・ギャルズ』になれた。あの場所には不思議なエネルギーが集まっていたように思います」

 ゆりやんさんも並々ならぬ覚悟で臨んだ。「一世一代の大勝負という雰囲気があった。あの場にいた全員がタイムスリップした感覚になったと思う」と振り返る。「10カウントを聞きながら千種の顔を見たら、えりかとの撮影中の思い出がフラッシュバックしたんです。『ここはダンプ松本として勝たないといけない』とグッと気持ちを入れ直しました。勝ち負けでは片付けられないものがありましたね」。髪を切り終えた瞬間は、生まれて初めて震えと涙が止まらなかったという。

3人にとって「強さ」とは?

 「うちらは強くなるしかない」。劇中で千種はたびたび自分にそう言い聞かせる。強さとは何か。唐田さんは「弱さとしっかり向き合って、プラスに変えて生きることだと思います」。剛力さんは「愛情じゃないですか。自分が好きだからこそ、この人を守りたい、強くなりたいと思える」と考える。

(左から)剛力彩芽さん、ゆりやんレトリィバァさん、唐田えりかさん=大阪市中央区で2024年9月18日、村田貴司撮影
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 「筋肉ある人です!」

 ゆりやんさんが即答すると、爆笑が起きた。「物理的にはそうですが」と少し間を置いて続けた。「結局、自分を守れるかが一番大事な気がします。自分を大事にできれば人も大切にできる。信じるものを貫いて、生きられることが強さじゃないですかね」。真っすぐな目で答えた。

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