劇団「東京演劇アンサンブル」の新作「ヤマモトさんはまだいる」が、東京都豊島区東池袋4の「あうるすぽっと」で初演されている。ドイツ現代演劇を代表する劇作家の1人、デーア・ローアーさん(60)が今年、創立70年の同劇団のために書き下ろした戯曲で、「ヤマモトさん」という名の高齢女性をめぐる群像劇だ。
西欧の大都市にある小さなアパート。そこで年配の「ヤマモトさん」は一人で暮らす。下の階にはゲイのカップル、ニノとエリックが住み、ヤマモトさんを食事に招いたことから、友情のような気持ちが芽生える。だが、ヤマモトさんは階段で転んでしまい、病院に運ばれていく――。舞台では、ヤマモトさんと、このカップルのふれあいを軸に、都会での孤独、生きづらさを抱える人々の姿が描かれる。ヤマモトさんは、同劇団代表の志賀澤子さんが演じている。
東京演劇アンサンブルは1954年、俳優座養成所3期生を中心にした若手演劇人が前身の「劇団三期会」を創設し、その後、現在の名称となった。ドイツの劇作家、ブレヒトに共鳴した演出家、広渡常敏さん(27~2006年)が長年、代表を務め、チェーホフの「かもめ」をブレヒトの演劇論からとらえ直して上演を繰り返した。「銀河鉄道の夜」や「走れメロス」などの演目で学校公演も行った。80年代以降は、東京都練馬区にあった「ブレヒトの芝居小屋」を拠点に活動し、19年に埼玉県新座市に移転した。
海外作品に取り組むなかで、ローアーさんの戯曲の上演は、今作で3作目となった。戦争や生と死の問題などを題材に作品を生み出してきたローアーさんは、ブレヒトの社会演劇を受け継ぐ劇作家として注目されている。「ヤマモトさんはまだいる」の初演にちなんで来日したローアーさんは13日、公演後のトークに登壇した。「(同劇団から)戯曲の執筆を依頼されたとき、コロナ禍でお年寄りが死に直面している状況を目にしていたので、ヤマモトさんという年配の女性を登場させることを思いついた」と説明し、「孤独の中から自分を救い出すことの難しさ」をストーリーに織り込んだという。
「アンサンブルのみなさんは、登場人物の言葉に集中して演じてくださった。ヤマモトさんは日本の名前ですが、ベルリンやロンドン、ローマなどどんなところにもある話かもしれません」と語った。
16日まで。詳細は東京演劇アンサンブルのホームページ参照。【明珍美紀】
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