1962年にデビューしたイギリス・リバプール出身のロックバンド、ザ・ビートルズ。
現在、東京・六本木にある東京シティビューで開催中の「ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~」では、ザ・ビートルズのメンバー ポール・マッカートニーが、世界的にブレイクしようとする1963年12月から1964年2月の3カ月間を撮った写真が展示されている。
ここで展示されている写真は、60年もの間一度もプリントされることはなかった1000枚の写真から厳選された約250点だ。
ポールの視点で切り取ったメンバーの表情は無邪気さに溢れ、ビートルズを取り巻くマスコミや警官の姿からは緊張感が伝わってくる。
ここにあるすべての写真が「ビートルズ現象」そのものだ。
写真展の会場は、まるでビートルズのドキュメンタリー映画のなかに放り込まれたような臨場感に溢れていた。
1964年、ザ・ビートルズは世界的なスターとなった
1964年はザ・ビートルズにとって大事な年になった。
この年、ビートルズはアメリカでブレイク。イギリスのロックンロール・スターから世界のロックンロール・スターへと飛躍した。
とくに1964年2月のテレビ番組「エド・サリバン・ショー」でのパフォーマンスは今や語り草になっている。当時全米で絶大な人気を誇っていた番組にビートルズが出演したとき、視聴率70%超えを記録。7000万人以上がテレビに釘付けになった。
その間、青少年の犯罪率が低下したという都市伝説まで残っている。この年、ビートルズの人気はアメリカにとどまらず世界中へと波及する。
以前、筆者がムッシュかまやつ氏にインタビューしたときに、銀座の輸入盤を扱う店でビートルズのレコードを見つけたのは1964年のことだったと語っていた。
ビートルズにとって激動の3カ月を撮影
2020年、1963年から「エド・サリバン・ショー」に出演する1964年2月までの、まさにビートルズが“ターニングポイント”を迎えようとする日々を収めた、1000枚の写真が発見された。
撮影したのはビートルズのメンバーだったポール・マッカートニー。これらの写真はポール個人のアーカイブにネガやコンタクトシートの形で残されていた。
つまり60年もの間、一度もプリントされることはなかったのだ。
2024年の今でもファンや評論家はビートルズの活動について少しでも正確な事実を知ろうと、血眼になっていろいろな資料を探しまわっている。ことあるごとに考察が語られ、書籍が毎年のようにリリースされている。
ビートルズがレコーディングアーティストとして活動したのはわずか8年ほど。その8年間の出来事に少しでも近づこうと60年も研究が続いているのだ。
それを考えても、ポールが撮った写真の資料的価値がどれほどのものかわかると思う。
ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーがリニューアルオープン記念として「ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~」を開催したのも納得だ。言うまでもなく、この写真展は大きな反響を巻き起こした。
貴重な写真の数々がついに来日
その写真展が日本へやってきた。六本木ヒルズの東京シティビューにて2024年9月24日まで開催中だ。10月12日からは会場をグランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボに移し、2025年1月5日まで開催される。
展示されている写真の数は約250枚。ロンドンでの展示の際に1000枚の写真から厳選されたものだ。ポール自身も写真のチョイスに関わっている。
それどころかポールは写真のフレームから壁の色まで、ありとあらゆることにアイデアを提供したという。
壁にはポールの直筆メッセージが大きく描かれ、ブルームバーグ・コネクツ・アプリをスマートフォンにダウンロードすると、ポール自身の解説を聞きながら展示を見ることができ、会場のあらゆる場所でポールの存在が感じられる。
歴史的、文化的記録としても貴重な写真の数々
写真展を訪れる人たちの一番のお目当ては、当然のことながらビートルズの写真だろう。ところが展示されているビートルズは、今までメディアを通して見てきた彼らとは少し様子が違う。
これまで幾度となく目にしてきたビートルズの写真は、ライブや記者会見、インタビュー、有名人と会ったときのものだ。ところがここに展示されている写真はよそ行きのビートルズではない。
ジョン・レノンもジョージ・ハリスンもリンゴ・スターも限りなく自然体に近く、時として無邪気な表情や仕草を見せている。ジョージに至っては居眠りをしている写真まである。
マネージャーのブライアン・エプスタインや、ロードマネージャーのマル・エヴァンスをはじめとしたスタッフの写真も同じだ。彼らはポーズを取るでもなく、どちらかというとカメラを向けるポールに対して「やれやれ」といった感じで視線を送っている。
ピントが合っていない写真もある。それがかえって当時のありのままの空気を伝えている。妙に生々しく臨場感がある。初めて本当のビートルズの姿を見たような気分になった。
ポールはほかにもメンバーが乗った自動車を追いかけるファンや警察官、マスコミ、街の風景を写真におさめた。
ポールはこれらの写真を「日記」と称している。
「『もう少し時間をかけてピントを合わせればよかった』と思うものもあるけど。そんな時間はなかった。今ではそれでよかったと思うよ。(中略)何年も経って、またそれらの写真を見て、歴史的記録、文化的記録としても振り返ることができてとてもうれしく思う。なぜって、ビートルズの側から、誰もできないアングルからその時代を記録しているからね。ユニークで特権的なアングルから撮影しているんだ」(ポール・マッカートニー)
ビートルズのドキュメンタリーの世界へ
これらの写真は日記であるのと同時に、「ビートルズ現象」が全世界を席巻する前夜をポールの視点で切り取ったドキュメンタリーでもある。
会場でこの写真たちに囲まれていると、当時のビートルズの熱狂の渦のなかにいるようだ。ビートルマニアの歓声や、新聞社のカメラマンがシャッターを切る音、フラッシュをたく音がどこからともなく聞こえてきそうだ。
雲の上の存在であるビートルズのリアルな息づかいが聞こえてくる。まるでビートルズのドキュメンタリー映画のなかに放り込まれたようだ。
展示してある写真は『ポール・マッカートニー写真集~1964年、僕たちは台風の中心にいた~』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス・刊)という本になってはいるが、展覧会では本をめくるのとはまったく違う体験ができる。
演出された空間にいるからこそ感じられるライブ感は、本では味わえないものだ。
1963年から1964年にかけてビートルズが世界へ飛躍しようとするときの興奮や喧騒、そこに立ち込める熱を肌で感じることができる。
東京会場だけの演出も盛りだくさん
会場内のショップには出展作品をモチーフにした様々なグッズが売られている。イギリスやアメリカで展示販売されたグッズのほかに、日本限定のオリジナルグッズもある。
同じフロアにある「Restaurant THE MOON」では、展覧会をイメージした3種類のコラボレーションカクテルを提供している。
会場にはイギリス・アメリカ展にはない日本独自の展示も用意されている。11メートルの吹き抜けになっているエントランスに、高さ2メートルを超える巨大なビートルズのメンバーの写真パネルが置いてあり、フォトスポットになっている。
会場内の写真でも紹介されていたブライアン・エプスタインが所蔵していたビートルズのブロンズ像や、ポールが使用していたペンタックス35ミリカメラの同型モデルも展示されている。
海抜250メートルから眺める東京の眺望と融合するように、ポールが撮った写真が吹き抜けの天井付近に飾られている。
ポールの情熱はもちろんだが、今回の日本展に関わった人たちの情熱までもがそこかしこに溢れている。
「ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~」とは250枚の写真を見るだけではなく、あらゆる演出や仕掛けやイベントを体験する場なのだ。
(文・DONUT編集部 森内 淳)
『ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~』
会期:2024年7月19日(金)~9月24日(火)※会期中無休
会場:東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
時間:10:00~19:00(金・土は~20:00、入館は閉館の30分前まで)
https://www.eyesofthestorm.jp/index.html
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