「日本が大好き」と語るピーター・ゲルブ総裁©Paola Kudacki / Met Opera

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場を支えるMETオーケストラ(メトロポリタン歌劇場管弦楽団)が6月に来日公演を行う(フジテレビ招聘・制作)。世界三大オペラの1つ、同歌劇場を仕切るのがピーター・ゲルブ氏。歴史に残るピアニスト、ホロビッツのマネジャー、レコード会社の社長などを務め、2006年、総裁に就任した。来日を前に劇場運営などについてオンラインで話を聞いた。

大震災後に来日公演

メトロポリタン歌劇場は東日本大震災が起きてわずか3カ月後の2011年6月、さまざまな困難の中、来日したことが、音楽ファンの印象に残っている。

ゲルブ総裁は「私たちは東日本大震災後、来日した最初のメジャーなカンパニーでした。多くの団体がツアーを中止しましたが、日本のファンをがっかりさせたくないと思い、懸念があったにも関わらず来日公演に臨みました。私たちはそれが正しいことだと信じ、日本の人々が精神的な支援を必要としているときに、それを提供することが重要だと考えました。オペラ、芸術には人々の生活を変え、勇気づけ、希望を提供する力があると信じています」と話す。

コロナ禍で劇場は大きな打撃を受けた。2020年3月から1年半、閉鎖を余儀なくされた。

音楽監督ヤニック・ネザ=セガンとMETオーケストラ=2月1日、カーネギーホール©Chris Lee

「コロナは財政的に窮地に陥っている団体をさらに不安定な立場に追い込みました。というのも事実上、政府の助成金がないアメリカでは民間の慈善活動に頼っています。年間3億ドル以上であるMETの運営費と、興行収入と映画館でのチケット販売による収入との差額を補っています。その間に、私たちは差額を補うためにこれまで以上に多くのお金を調達するファンドレイジングをしなければなりませんでした。

私はトップとして、芸術面とともにビジネス面も考えなくてはなりません。COVID以来、人々がオペラハウスや映画館に戻ることを恐れていたために、売り上げの低下に苦しみましたが、それは改善されてきています。しかし、すべてが以前よりもコストがかかります。装置などの制作コストも高騰し、今は非常に困難な時期です。

一方で、芸術的には素晴らしい成功を収めています。芸術的な成功が経済的な安定につながると考えています。私たちが芸術的に成功を収めれば、より多くの人々が私たちをサポートしたいと望むからです」

新規の聴衆が急増

芸術面では、「ロメオとジュリエット」のナディーン・シエラとバンジャマン・ベルネーム、「トゥーランドット」のカラフを歌った韓国の新人テノール、ソクジョン・ベクなど次々と若いスターが生まれている。昨シーズンは映画で知られた「めぐりあう時間たち」をオペラ化し、フレミング、ディドナードが主演した公演が最大のヒットとなった。

「新規の聴衆が急増しています。まだ終わっていませんが、今シーズン(2023〜24年シーズン)において、これまで来たことがなかった6万6000人の新規チケット購入者がありました。彼らは新しい作品にひかれてやってきます。私たちは今日の観客に訴えるタイムレスな古典と、今日的な主題を扱う新しい作品とのバランスを取るよう、努力しています。

確かに年配の聴衆の中には、ゼフィレッリがプロデュースした『ラ・ボエーム』と『トゥーランドット』はオペラの頂点であり、その後は何も変わるべきでないと考える聴衆もいます。今日のアメリカでは芸術教育が悲しいことに不足しているため、逆に若い観客は先入観を持たず、何に対してもオープンです。

でもアメリカで寄付をするクラスの人々、最も裕福な人々、3桁の億万長者(ビリオネア)の人々で、舞台芸術に興味を持っている人は非常に少数です。より若い新しい観客を拡大すると同時に、寄付者の層にビリオネアを取り込みたいと考えています。それは容易なことではありませんが、1つ非常に明確なことがあります。それは、リスクを犯すことなく新しいステップを踏み出さないと、オペラは死ぬということです」と常に前進していくことを強調した。

ゲルブ総裁は小澤征爾が音楽監督を務めたボストン交響楽団のアシスタント・マネジャーを務めるなど、たびたび来日している。

「来日公演は待ち遠しいです。ヤニックが言ったように、オーケストラのメンバーの多くは新しく、若いメンバーが増えました。彼らにとっては初めての日本訪問となります。これは彼ら全員にとって素晴らしい経験になるでしょう」

METオーケストラのプログラムA(兵庫県立芸術文化センター6月22日、東京・サントリーホール25、27日)は、ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲、ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」組曲 (ラインスドルフ編)、バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式・日本語字幕付き、メゾソプラノ:エリーナ・ガランチャ、バスバリトン:クリスチャン・ヴァン・ホーン)。プログラムB(兵庫6月23日、東京26日)は、モンゴメリー:すべての人のための賛歌(日本初演)、モーツァルト:アリア「私は行きます、でもどこへ」「ベレニーチェに」 (ソプラノ:リセット・オロペサ)、マーラー:交響曲第5番。問い合わせは、<兵庫公演>芸術文化センターチケットオフィス(0798・68・0255)、<東京公演>クラシック事務局(0570・012・666)。

(江原和雄)

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