「もしも…」なんて、現実社会には起こり得ないことは知っている。それでも時に、人は夢想するものだ。あの時、違う道を選んでおけばだの、違う時代に生まれていたら、だのと。

 映画は、現実では果たせない鬱(うっ)憤(ぷん)や言いにくいことも代弁してくれていて楽しんだ。反対ばかりで代替案も示せない無責任な人に自分を投影して、恥じ入ったり。「生類憐みの令」で迷惑な将軍様とインプットされていた徳川幕府5代将軍綱吉が、実はかなりの名将だったことを教えられたりと、このあり得ない設定の映画は、ぐさぐさと古いままの情報や諦観という逃げ根性に切り込んでくる。

 最後の家康の演説も、「政治が悪い、社会が悪い」と叫んでいる向きには旗色が悪く、野村萬斎演じる家康のその腹から出てくる声に聴き入りながら背筋を伸ばす。(スターシアターズ・榮慶子)

◇シネマQ、ライカムで上映中

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