「キングダム展-信-」への来場を呼びかける作者の原泰久さん=3月21日、那覇市の県立博物館・美術館

 累計発行部数1億部を突破した、原泰久さんが描く大人気漫画「キングダム」(集英社)の原画展「キングダム展 ―信― 」が沖縄県立博物館・美術館で開かれています。春秋戦国時代の中国を舞台に、天下の大将軍を目指す主人公の信と、中華統一を目指す若き王・政を中心に繰り広げられる歴史アクション漫画です。原画展の開催に合わせて沖縄入りした作者の原さんが3月21日、沖縄タイムスのインタビューに答えてくれました。(社会部・又吉嘉例)

原画展へのこだわり

 会場には400点以上の直筆生原画や描き下ろしイラスト約20点が並び、巨大なグラフィックと合わせて名場面を「体感」できます。初めての人でも楽しめるようにストーリー仕立てで展示。歩きながら信の成長物語をたどれます。

 「歩く速度は漫画のページをめくる速度という形で設計しました。『空間で漫画を読む』体験をしてほしい」。原さんはそう望みました。デジタルによる作画が9割を占めるという漫画業界で、アナログな手描きの生原画は希少な存在だといいます。「一番のメリットは原画展ができること」と強調。筆圧や筆使い、修正液の跡…作者の創意工夫がじかに伝わります。

キングダム展 -信- の展示物 ⓒ原泰久/集英社

「真逆」で「成長」するキャラ作り

 主人公・信の魅力は「真っすぐでぶれないところ」。キャラクター設定の肝は「真逆」でした。「下僕から大将軍というのが一番の振り幅です。もう一つは下僕と大王様という、政との関係も真逆。真逆で作り込むとエンタメ(人を楽しませる娯楽性)が強くなる」と教えてくれました。

 若き王・政(嬴政)は後の「秦の始皇帝」。物語の構想段階を振り返り、「『始皇帝の中華統一』はみんな知っているけど、どうやって統一したのかはほぼ知らないのが狙いどころだと思った」と明かします。

 天下の大将軍を目指す信の目標となる人物が秦の将軍、王騎です。節目節目で信の行動の指針となる大人気キャラですが、初登場時にはそこまで設定していなかったそう。そもそもは中国の歴史書「史記」にある「王騎死す」の一文でした。「あと何年で死ぬと史実で決まっていたので、それまでにキャラを膨らませていこうとしたのが始まり。すると王騎がだんだん強くなり、めきめき躍動し始めた。これはもう、信を導く人になると思った」と、キャラの「成長」を振り返りました。

点と線が壮大な戦史をつむぐ

 キングダムのストーリーは史実に沿って進みますが、その9割が原さんの創作だそうです。連載前には春秋戦国時代で覇権を争う7カ国の国ごとの年表を作りました。20年に迫る長期連載の進み具合を問うと「年表的にはだいぶ来ています」と苦笑いしました。

 登場キャラが多く、ビジュアル(見た目)も含め、一人一人が魅力的です。「そのキャラの人生を生きるくらいに没入して描くので、自然とドラマが動いていく」。キャラ同士、一つ一つのエピソードが「線」として結ばれ、やがて本筋の中華統一に向けての戦争につながるよう、こだわって物語を作っているそう。

 「各キャラのポリシー(信念)をしっかり作っていて、『このキャラはこの場面でこういうことを言わない』ということが見えていれば矛盾は生まれない」

作品へのこだわりを語る原泰久さん

合戦シーンの「ごほうび」

 漫画の見どころの一つに、見開きページいっぱいに敵と味方が入り乱れて描かれる合戦シーンがあります。「描くのは大変ですよ。多すぎて。アシスタントも含めてみんなで描いています」。学生の頃は映画監督になりたかったくらい映画好きで、中でも合戦ものの映画が好きだといいます。さらにその中でも好きなシーンは「戦争が始まる直前、自軍と敵軍が対峙して、将軍だったり王様だったりがげきを飛ばすところ。あれを漫画で描きたかった」

 「でも、そのためには群衆を描く必要もあるし、士気が上がったと説得力を持たせるためにバトルも描かざるを得ない。げきのシーンを描くのは『ごほうび』で、その後は大変なんです」と笑いました。

キングダム展 -信- の展示物 ⓒ原泰久/集英社

絵が上達するために

 漫画家になった「原点」の経験は小学校低学年の頃でした。当時はやっていた「キン肉マン」の絵が上手だった原さん。休み時間に「キン肉マンの絵を描いて」と同級生が机の前に行列をつくったことが忘れられないそうです。「何か、快感がありました」

 絵が上達するためには「小さい頃はとにかく『絵を描くことが好き』ということが大事」と指摘します。そこから成長していく上では「考えて描くこと」が重要だとしました。キングダムを例に「体の重心が戦っているように見えないとか、甲冑(かっちゅう)の可動域がおかしいとか、いろんなことを理詰めで考えるのは遠回りのようで、意外と近いです」

「キングダム展-信-」への来場を呼びかける作者の原泰久さん=3月21日、那覇市の県立博物館・美術館

プロに「偶然」はない

 長期連載を続けるために大事なことは「目標を高く持つこと」。「プロとしてやっていくのであればお客さんがいてこそ、読まれてこそだと思うので。数字にもこだわります」。コミックスは4月9日現在で71巻を数え、累計発行部数は昨年11月に1億部を突破しました。「一人でも多くの人に読んでもらうために、何が足りないかを考えています。偶然でそこ(1億部)には行かない」と力を込めます。

 バトル、歴史、政治、友情、恋愛、出世…さまざまなジャンルの楽しみ方ができるキングダム。原さんは「戦争ものなので、歴史の講釈になったり、思想の押しつけになったりしないように気をつけて、一番上にエンタメを置くようにしています。それこそ全部のジャンルの漫画と思って読んでくれるとうれしい」と笑顔で話しました。

 最後に原さんに、かつて中国と交易していた琉球王国の印象を問うと、「本当に勉強したいと思っているんですよ」と興味を持っていました。「連載が終わったら南の島で1年ぐらいボーッとしたい。沖縄でもいいですね」

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