わが子を切望していた女性が授かったのは、難病を抱えた障害児だった――。妊婦の血液から胎児の異常を知ろうとする「新型出生前診断」が広がる中、実話を基に制作された長編映画「渇愛の果て、」が、新宿ケイズシネマ(東京都新宿区新宿3)で24日まで公開中だ。脚本・主演を務めた有田あん監督は「さまざまな選択肢を提示した。女性にも男性にも考えるきっかけにしてもらいたい」と話す。【奥村隆】
監督「多様な選択肢、考える契機に」
主人公の妊婦が病院で受けた出生前診断の結果は「陰性」。ダウン症などにつながる染色体異常はないとされた。だが、赤ちゃんは3万人に1人の難病を持って生まれてきた。医師に選択を求められ、疲弊する主人公。ともに苦悩する夫。支える助産師や看護師、戸惑う家族や親友たち。映画は、考え方の違いを浮かび上がらせながら、群像劇として展開する。
有田監督は「実際に難病の子を出産した友人から悩みを聞く機会があり、自分自身が知らないことが多すぎることに気づいた」と制作のきっかけを振り返る。「不良な子孫」の出生防止を掲げた旧優生保護法のような優生思想や、2016年に相模原市の「津久井やまゆり園」で障害者19人が殺害された事件も意識して脚本を書き上げたという。だが、作品では正しい答えは示されない。当事者や医療従事者ら約50人に取材し、現実に起きていることを土台にストーリーを組み立てた。
有田監督は「産むか産まないかも含め、どの選択が正解かは誰にも分かりません。年齢に関係なく、誰もが自分のこととして捉えられるようになってほしい」と語る。中高生にも見てもらいたいという。
作品中の助産師のモデルになった高杉絵理さん(助産師サロン主宰)も「出生前診断は気軽に受けられるという宣伝が広がっているが、この映画が立ち止まって正しい知識を持つきっかけになれば」と話す。高杉さんが特に強調するのは「子どもの親は2人いる」という点だ。「妊娠、出産を巡って困難な問題に直面した時、男性はどう向き合えばいいのか、考えるヒントにしてほしい」と呼びかけている。
有田監督や出演者らによるトークイベントが連日ある。6月以降、大阪など全国で順次公開される。
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