サッカーで失点といえば、一般的にマイナスの印象が強い。だが史上3人目となるJ1通算600試合出場を達成した浦和レッズのGK西川周作選手(37)の捉え方はひと味違う。その思考力は長くトップで活躍する原動力になっている。
逆に自分たちのチャンスに
節目の数字に達した6日の横浜F・マリノス戦(埼玉スタジアム)は「理想の展開」で進んだ。浦和はMF伊藤敦樹選手の2得点で中盤まで優位に試合を展開。西川選手も安定したクロス対応や機敏なシュートストップ、そして最後尾からパス回しに参加して攻撃の起点にもなるなど、いつも通りの「頼りがい」を見せていた。
後半41分、攻勢を強めてきた横浜マに1点を返され、勢い付く相手にさらに押し込まれてもおかしくない状況になったが、西川選手の前向きな考えがチームに落ち着きをもたらした。
「2―1にされたとしても、逆に向こうは前掛かりになるから、自分たちの方がチャンスができるんじゃないかなって考えていました。メンタル的なところでポジティブに考えることで、特にGKは皆に落ち着きを与え(ることになり)、いい攻撃にもつながると思うので。考え方は(キャリアを重ねて)変わってきましたね」
日々発見、GKの楽しさ
2005年、大分トリニータでJ1デビューした西川選手。サンフレッチェ広島や浦和、日本代表でもキャリアを重ねて、今季がプロ20年目のシーズンだが、今もなお、GKという役割に新たな発見を続ける毎日だ。
「本当に流れを変えられるポジション。逆に負けた時はすごい言われると思うんですけど、それもすごいやりがいで。やっぱり自分のプレー次第で、来てくれた方を笑顔にするか、そうじゃないかって決まってくる。そこのやりがいは何歳になってもたまらないですね」と、とびきりの笑顔で魅力を語る。
ピッチに立ち続けるための準備にも余念がない。参考にするのは浦和に通算14シーズン在籍し、21年限りで引退したチームのレジェンド阿部勇樹さんだ。自身は浦和在籍11年目となる中、特に水分量には気を配っているという。
「水分量が低下してしまうと、疲労がたまって危険な状況になってしまう。阿部選手の姿勢をみながら10年やらせてもらった。ケアにかける時間も人よりすごかった。自分も危ないと思う時はトレーナーの方に体を触ってもらって、感覚を確かめる作業を昔からやってきた」と説明する。
近年は22年に就任したジョアン・ミレッGKコーチの元で技術を高めるとともに、どんな場面でもチームに落ち着きをもたらすような、精神面の進歩も遂げてきた。
理想ゴールへのこだわり
西川選手の前向きな声かけもあり、最後の力を振り絞った浦和は2―1のまま逃げ切り、メモリアルマッチを勝利で飾った。
試合終了の瞬間、4万人超の大歓声がスタジアムを包む中、西川選手は力強く右拳を握った。遠藤保仁さん(672試合)、楢崎正剛さん(631試合)に次ぐ3人目の偉業。ただ、本人は至って冷静だった。
「本当に、今日の試合で特別な思い入れっていうのはそんなにないですけど。自分の通過点でもあるっていう意味では」
通過点であるならば、西川選手が「ゴール」に見据えるものは何か。チームのタイトル獲得など、結果にこだわることを前提とした上で、言葉を続けた。
「西川が引退する時に皆さんの頭の中に、すごい記憶に残るようなプレーヤーになりたいなっていうのは思っている。どう皆さんの頭の中に残るか分からないですけど、優勝してなのか、ちょっと特徴があるキーパーだなとか。何かしら皆さんの頭にいいイメージで残りたいなと思います」
記録にも、記憶にも残る選手に。西川選手の旅はまだまだ続く。【角田直哉】
にしかわ・しゅうさく
1986年6月18日生まれ、大分県宇佐市出身。大分トリニータの育成組織を経て2005年7月2日の横浜F・マリノス戦でJ1デビュー。10年からサンフレッチェ広島、14年から浦和レッズでプレーする。浦和では17年、22年度のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)優勝に貢献した。日本代表では31試合に出場。身長183センチ、体重81キロ。
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