東京ドームでの世界戦から一夜明け、記者会見した井上尚弥(左から3人目)、大橋秀行会長(同4人目)ら=横浜市で2024年5月7日、岩壁峻撮影

 東京ドームで34年ぶりに行われ、4万3000人の観衆を集めたボクシングの世界タイトルマッチから一夜明けた7日、スーパーバンタム級4団体統一王者で防衛を果たした井上尚弥(大橋)が横浜市内の所属ジムで記者会見した。大一番直後は、試合について「覚えていない」と苦笑したが、この日は一回に喫したプロ初ダウンを含め、冷静に「解説」した。

 大きな腫れもない顔で報道陣の前に姿を現した井上は、対戦相手のルイス・ネリ(メキシコ)について「もっとパワーがあると思っていた」と振り返った。ダウンを取られた左フックは「死角から入ってきた」と不意を突かれたものの、大きなダメージにはならなかったといい、こうした事態も想定していたという。

一回、ルイス・ネリ(右)にダウンを奪われる井上尚弥=東京ドームで2024年5月6日、藤井達也撮影

 「(ダウンして)8カウントまでは膝をついて休んだ。その数秒が大事だと思うので。そういうシーンが訪れることを日ごろから考えるようにしている。ダウンしてすぐ立つと、脚のふらつきが残ってしまうので」

 その後のネリの攻勢をかわして一回を終えると、会場に映し出されたリプレー動画を見て、ネリのフックの軌道を「復習」したという。それが自身優位の展開に持ち込む要因になった。変則的で大振り気味の特徴を見切ったことで、後はどう効果的に自分のパンチを組み立てるかに重きを置くことができた。

 出色だったのは、お返しとばかりに左フックで2回ダウンを取った後の“右”だ。六回、右アッパーを顔面に見舞うと、ガードが下がったネリに右ストレートをクリーンヒットさせた。まともに食らったネリが崩れ落ちたことからも威力が伝わる一撃について、「ストレートとフックの中間。一番力が乗る角度だった」と語った。

 試合はアマゾンジャパンによる会員制の動画配信サービス「プライム・ビデオ」でライブ配信され、同社によると、瞬間最大視聴数は過去最高(数値は非公表)となり、日本が優勝した2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝を超えたという。

 大橋ジムの大橋秀行会長は、歴史的な興行へのプレッシャーに愛弟子の初のダウンで「緊張しっぱなしだった」というが、リラックスした表情で取材に応じ、「ボクシングはマイナー扱いされるけど、タイミングによっては野球を打ち破ってしまう。これでまた注目される」と語った。

 井上の次戦は関東圏で9月を予定し、それ以降は海外開催や別会場のドーム開催も視野に入れる。大橋会長は「また意欲が湧いてくるんですよねえ」と笑顔を見せた。【岩壁峻】

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