スピードスケート世界選手権のスプリント部門女子で総合優勝を果たした高木美帆=ドイツ・インツェル(共同)

スピードスケート女子の高木美帆(29)=TOKIOインカラミ、日体大卒=が産経新聞の単独インタビューに応じた。2022年北京冬季五輪の翌シーズン(22年度)はナショナルチーム(NT)を離れて個別で活動し、昨年度は仲間らと「チームゴールド」を結成するなど独自の道を切り開いてきた。22年度には「スケート人生に何を求めるか」をよく考えたという日本のエースだが、この1年は心機一転、「どうやったら速くなるかをよく考えた」と明かした。26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪のプレシーズンとなる新たな1年を、身体の地力を高める「最後のライン」として長い距離を重視する方針を示し、チームゴールドの課題には選手層の厚みを挙げた。


《世界距離別選手権で1000メートルと1500メートルの2冠を達成し、世界選手権スプリント部門も制覇。しっかり結果を残した昨年度、活動基盤となったのはNTや実業団チームでなく、村上右磨や佐藤綾乃らと結成したチームゴールドだった。選手1人という練習環境からの変化に「また仲間と一緒にスケートをする機会ができ、いろいろな発見や気付きがあった」と語る。自らが中心になって発足させたチームを今後さらに充実させるつもりだ》

「チームゴールドは形になり始め、安定というか、チームとしてみえるようになってきたのは間違いない。それでも走り出したばかりのチームというのは変わりなく、まだまだ改善できる部分も細かい点ではあると感じている」

「チームとしてみたときに男子の短距離や中距離は1人ずつしかいなくて、その人たちにとってベストかというと、足りていないところはあるのが現状。選手層にもう少し厚みが出てくるとより良くなる」

《この2年間は試行錯誤の繰り返しだった。ヨハン・デビット・コーチらと手探りでここまできた。メディア対応もその一つ。公開練習の際、コーヒータイムを設けてリラックスした雰囲気を作り出したり、一度に記者全員の対応をするのではなく数人ずつのグループに分けて取材を受けるなど、工夫を凝らすこともあった》

「チームを作っていくうえで、露出の仕方とかメディアとの距離感とかをどうやっていけばいいかを(デビット・コーチらと)よく話すようになった。NTはスケートのことだけ考えていればいい環境で、できればメディアにも出たくないという感じだったが、(NTの)外に出て、(公開練習を)やらなくていいのかもしれないけど、より良くなるために、やってみると面白いかもしれないと、ヨハン(・デビット・コーチ)と話した」

《公開練習を行う過程でもさまざまなものを感じ取ったようだ》

「選手とコーチだけではできない。やりますと言ってできるものではないと改めて感じた。受付や案内というのも誰かがやらなくてはいけないが、そのつてがまずない。そのときは連盟の力を借りた。公開練習をやるのもいろいろなものを越えていかないといけないんだというのは感じた」

《北京五輪後最初のシーズンには「スケート人生に何を求めるかを考える局面が増えた」と口にしたが、目標をミラノ・コルティナダンペッツォ五輪1500メートルの金メダル獲得に定めて臨んだ昨年度、関心事項は変化したようだ。目標が明確になり、滑りに集中している様子が伺える》

「そのとき(22年度)は考えた。そこまで深堀りして、やっぱり五輪なんだなという答えに行きついたので。この1年は、改めてスケートって私にとって何だろうみたいなことは考えていない。チームのことも考えてきて、思考が必要以上に自分に向かなかったのと、人とスケーティングについて話せる時間が増えたので、自分にとってのスケートを考えるより、どうやったら速くなるかをよく考えていたと思う」

《オールラウンダーとしてあらゆる種目をこなす高木からみて、スピードスケートで最も難易度が高いのはどの種目のどういう点なのだろうか》

「そのときの状況によって違うが、あまり調子が良くないと思っているときの1500メートルでスピードを作るのはめちゃめちゃ難しい。でも、私からすると、1500メートルを滑るより5000メートルを速く滑ることの方が難しい。時間の配分だったりテンポの作り方というのは。そういう点では長距離の方が難しいと思う」

取材に応じた高木美帆。色紙に「もっと強く もっと速く」としたためた=東京都内(橋本謙太郎撮影)

《他の種目のポイントも次から次へと出てくる。貪欲に理想の滑りを追い求めている証だろう》

「技術的に難しいと思うのはトップスピードに乗ったときの500メートルのインコーナー。1000メートルも一緒。自分が成長していかなきゃいけない部分でもある」

《昨年度終盤は短距離に注力し、これからの1年は長い距離を重視するという。それは「ミラノの1500メートル」を見据えてのことなのか、それともオールラウンダーとしての本能なのか》

「やりたいと思う気持ちは明確には分けきれない。正直なところ、どちらもあると思う。何かを選ばなくてはならなくなったときは1500メートルにとっていい方を選びにいくとは思う。でも、長い距離をやることで1500メートルに悪影響が出るとは考えにくい。特に、(26年の五輪に向けて)ベース(身体的な地力)をさらに上げることを考えたときに(この1年は)最後のギリギリのラインというのはある」

「五輪シーズンでベースを上げるのはなかなか難しい。(五輪シーズンの1500メートルを考えると)ベースがある中でスピードを上げていく方向になっていくイメージが何となくある」

《新シーズンはどこに目標を設定するのか》

「タイムを縮めたいのは大前提としてあるが、どの大会をメインゴールにするかを考えたとき、決まり切っていないというのが正直なところ。(年間)スケジュールが今までと全然違う。ヨハン(・デビット・コーチ)ともう一回詰めないといけない」(横浜総局 橋本謙太郎)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。