全国高校駅伝(22日・京都)で、今回から外国人留学生の起用が男女とも最短距離の3キロ区間のみに制限される。留学生の走力が優勝に大きく影響したことを受けてのルール変更で、対応に追われる現場からは、さまざまな声が上がっている。
全国高校駅伝の留学生区間制限に関するルール変更について2回に分けて配信します。
上:「多様性は分かるが…」苦渋の決定
下:現場の賛否さまざま「正解のない問い」
「留学生の影響小さくなる」
ルール変更の発表は、1年前に行われた前回大会のレース後だった。
「ゆくゆくはそうなるかもしれないとは思っていたが、もっと議論を重ねてからでもよかったのではないか」
ケニア出身の留学生を受け入れている女子チームの指導者は急な変更に戸惑いを隠さない。
留学生が最長区間1区(男子10キロ、女子6キロ)を走れなくなった際の変更は、2007年5月に決まり、約1年半後の翌08年12月の大会時から適用された。
しかし、今回は決定から適用まで、1年だった。
ルール変更で、レースの展開は大きく変わる。
男子では、2番目に長く、流れを大きく変える3区(8・1075キロ)で、留学生が07年から17年連続で区間賞を獲得してきた。
女子でも、最終5区(5キロ)で、08年から昨年までの16回のうち、13回で留学生が区間賞を取ってきた。
ある強豪校の監督は「特に男子は全7区間の42・195キロのうちで、留学生が走れるのは3キロだけになり、勝敗に与える影響は小さくなった。留学生で勝負していた学校は勝てなくなる」と語る。
圧倒的な「個」でなく、全員のたすき渡しによって勝利をたぐり寄せるという駅伝本来の妙味を取り戻すことが今回の区間制限の狙いの一つだ。
また、全国高校体育連盟陸上専門部の中村拓也事務局長は、留学生が3キロ区間を担うことで「日本人選手のスピード強化を期待している」と説明する。
距離が短くなる分、留学生はよりハイペースで走り、それを追いかけようとする日本人選手のレベルも上がるという考えだ。
豊富な実績を持つ指導者は「短い3キロ区間を走る日本人選手は各チームのエース格でない。留学生に付いていけず、スピード強化につながらない可能性もあるのでは」と指摘した上で、こう語る。
「外国人選手に勝つためには何をすべきかと考えるのは、次のステージに行ってからでいい。高校生年代では、まず、日本人選手同士で駆け引きを学び、トップを走り、勝つ喜びを知ることが大事。今回の変更でそれができるようになる」
多くの関係者が賛同した上で、今回のルール変更は実現した。しかし、不安の声がないわけではない。
元留学生「少し悲しい」
過去、留学生を起用した学校が好成績を出した際、レースを終えた選手たちに対して「外国人選手を使って……」など心ない声が上がることがあった。
留学生を指導する監督は不安な表情を浮かべ、「留学生も真摯(しんし)に競技と向き合っている。国籍にかかわらず一人の選手として『頑張れ』と応援してもらえるとうれしい」とこぼす。
また、今大会、留学生と同じチームで走る日本人選手は「留学生は走る能力だけでなく、日ごろの食事への意識も高い。本番のレースで短い区間しか走れないのは残念」と仲間を思いやる。
留学生への制限は、95年に「出場は1人まで」、08年に「1区からの除外」、今回の「最短3キロ区間のみ」と変わってきた。
留学生が所属する高校の指導者は「留学生を受け入れるには、手続きや生活のサポートなどがある。3キロしか走れないのであれば、今いる留学生で終わりにしたい」と話す。
これから先、留学を望む者にとって、今回のルール変更は、日本に行くチャンスが減ることにつながるかもしれない。
1992年に仙台育英のケニア人留学生として初めて全国高校駅伝を走った一人のダニエル・ジェンガさん(48)は今回の区間制限の拡大について「時代の流れで仕方ないが、(距離が)短くなったのは少し悲しい」と率直に語る。
都大路で史上初の3年連続区間賞を獲得しただけでなく、学業も手を抜かなかった。大学卒業後に実業団のヤクルトに入り、現在も同社のコーチを務める。「将来につなげるため、まずはしっかり勉強することが一番の目的だった。今の留学生も日本で学ぶことを生かしてほしい」と勤勉さの大切さを説く。
留学生受け入れ条件の整備を
そもそも、留学生に関するルールは、今回の変更が最終結論ではない。
19年に47都道府県の高校体育連盟陸上専門部を対象に行ったアンケートの回答でも「問題は留学の目的や経緯。日本人であっても、他県からの進学、過度な勧誘や授業料免除など高校生の部活動としてふさわしいのか」という問題提起があった。
東洋大の竹村瑞穂准教授(スポーツ倫理学)は疑問を呈す。
「そもそもの『入り口』を明確にすべきだ。高校は教育の中での競技活動が前提としてある。留学生の学力保証や透明性はどのように確保されているのか。留学生受け入れの前提条件を整えていなければ、今回の区間変更の拡大も内々の対応に終わったような印象を与え、不信感を招いてしまう」
留学生を巡るルール作りは複雑で、勝利至上主義や公平性も立場によって見解が変わる。
長く陸上に関わってきた関係者は「誰しもが納得するゴールを見いだすのは難しい」と率直に話す。「正解のない問い」の答えに少しでも近づくための検討を、これからも続けなければならない。【岩壁峻、高橋広之】
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