宮城野親方(元横綱白鵬)と二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)にそれぞれ科した日本相撲協会(八角理事長=元横綱北勝海)の処分をめぐり、ダブルスタンダードではないか-という声がある。いずれも部屋内部の不祥事ながら、一方は2階級降格処分に加え当面の部屋閉鎖という厳罰。もう一方は厳重注意のみ。2つの処分の軽重をどう読み取るべきなのか-。
当面の部屋閉鎖
日本相撲協会は22日、幕内大の里(23)が昨年9月に二所ノ関部屋内で20歳未満の幕下以下力士と飲酒したとして、親方とともに厳重注意処分を科した。大の里は春巡業出発前の24日、東京・両国国技館で「大変ご迷惑をおかけして本当に申し訳ない。しっかり反省して頑張りたい」と話した。
部屋内の飲酒といえば、大の里が若い衆と和気あいあいとお酒を飲み、その中に未成年者もいた…というイメージも湧くが、未成年者にお酒を強要したイジメでは?という疑惑が一部報道に流れている。
そこで思い出されるのが、宮城野部屋内で起きた元幕内北青鵬(22)の後輩力士に対する日常的な暴行だ。2月に問題が発覚すると、北青鵬は即引退。宮城野親方は監督責任などを問われ、委員から平年寄への2階級降格と報酬減額の懲戒処分を科された。処分はそれだけにとどまらず、宮城野部屋の全員を4月から伊勢ケ浜部屋預かりとする措置も決定。宮城野部屋は当面閉鎖となった。協会幹部は「将来の部屋の再興を視野に入れている」と話しているが、現時点で何ら保証はない。
不祥事の中身に濃淡
宮城野親方は第69代横綱白鵬で、幕内優勝回数は史上最多の45回を誇る。一方の二所ノ関親方は第72代横綱稀勢の里で、幕内優勝は2回。白鵬は記録にも記憶にも残る大横綱。稀勢の里は平成15年初場所で引退した貴乃花以来、14年間途絶えていた日本出身横綱として人気を博した。両者は将来の日本相撲協会理事長の座を巡るライバルと言われていた時期もある。
では、両者への処分の軽重の裏には何があるのか。まず濃淡があると思われるのが不祥事の中身だ。現時点で表面化している事実関係だけを見るならば、大の里は未成年者と単に飲酒をともにしただけ?なのに対し、北青鵬の後輩力士に対する暴行は凄惨(せいさん)の一言。3月の春場所中に相撲関係者が漏らしていた暴行の数々は、表現するのもためらう内容だ。
もし被害者が訴えていれば刑事事件に発展しても不思議ではなかった。問題が表面化しないように宮城野親方は隠蔽(いんぺい)工作を行っていた、という情報もあり、心証の悪さから〝量刑〟が増したとの見方もある。
積年の嫌悪感
さらに、日本相撲協会幹部らの宮城野親方に対する積年の嫌悪感も影響したのか。横綱時代、白鵬は品位に欠けるエルボースマッシュのようなかち上げや張り手などで何度も批判を浴びた。優勝インタビューでは万歳三唱や三本締めを観衆に促した。相撲界のしきたりや伝統をないがしろにするような行動に苦虫をかみ潰してきた協会幹部にとって、北青鵬の不祥事は〝意趣返し〟には格好のネタだった…といえば飛躍し過ぎた発想か。ただ、相撲を見続けてきたファンなら誰もが宮城野親方に対する処分を知って、現役時代のさまざまな場面がフラッシュバックしたことだろう。
日本相撲協会は3月25日、東京・両国国技館で評議員会を開催し、全会一致で八角理事長の続投を決めた。実質5期目となる〝八角長期政権〟の下で行われた2人の元横綱に対する処分は、両者の将来をも暗示しているのかもしれない。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。
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