観客席にあいさつするINAC神戸の選手ら。大勢の声援は選手の力にもなる(WEリーグ提供)

サッカー女子プロ、WEリーグの2023~24年シーズンも残り5~6試合。突如の中止連絡から一転して日本での開催(5月10日、浦和駒場スタジアム)が決まったアジア・クラブ選手権の決勝出場のため消化試合数が1試合多い首位の三菱重工浦和レッズレディースがリーグ2連覇を達成するのか、勝ち点差7で追う2位のINAC神戸レオネッサが巻き返して初代女王の意地を見せるのか。優勝争いは佳境を迎えつつある。

と同時に熱を帯びているのが、観客数ナンバーワンの座を懸けた集客合戦だ。今季からWEリーグに新規参入したセレッソ大阪ヤンマーレディースが大阪府サッカー協会、メインスポンサーのヤンマーホールディングスとタッグを組む形で、4月21日にヨドコウ桜スタジアムで行われた日テレ東京ヴェルディベレーザ戦で、悪天候にもかかわらずホームスタジアムリーグ史上最多となる6651人をマークしてトップに立つと、新本拠地のエディオンピースウイング広島効果が顕著なサンフレッチェ広島レジーナもホーム試合残り3試合の合計で1万人を集める「『FINAL 3 GAMES』観客動員数1万人プロジェクト」を始動し、首位奪還を狙う。

一方、2季ぶりのリーグタイトルとともに、観客数でも首位浮上を目指す皇后杯覇者のINAC神戸は5月2日にノエビアスタジアム神戸で行われるちふれASエルフェン埼玉で神戸市と連携し、同市内の幼稚園児から高校生、特別支援学校の子供たちを校外学習の一環として無料招待する「INAC神戸レオネッサ 子ども応援デー」を開催する。ふるさと納税を活用し、移動費のサポートを行うのが特徴で、費用負担のハードルを下げ、大勢の子供たちに観戦に訪れてもらう作戦だ。

また、セレッソ大阪ヤンマーレディースも「WEリーグ集客No.1プロジェクト~今こそ、セレッソファミリー集まれ~」を24日に発表。男子のJ1、セレッソ大阪のサポーターの力も借りて首位キープに躍起となっている。

目立つ〝西〟のクラブの健闘

まずは、今季の各クラブの1試合平均の観客数(4月25日現在)と、過去2シーズンの数字を多い順に列記する。


【2023~2024年】

①C大阪=2688人

②広島=2281人

③浦和=2038人

④マイ仙台=1968人

⑤I神戸=1846人

⑥大宮=1751人

⑦新潟=1503人

⑧東京NB=1317人

⑨AC長野=1043人

⑩相模原=922人

⑪EL埼玉=862人

⑫千葉=746人

リーグ平均=1590人


【2022~2023年】

①浦和=2380人

②I神戸=2194人

③マイ仙台=1797人

④大宮=1640人

⑤東京NB=1377人

⑥EL埼玉=1211人

⑦広島=1089人

⑧AC長野=1083人

⑨相模原=923人

⑩千葉=909人

⑪新潟=810人

リーグ平均=1401人


【2021~2022年】

①I神戸=3158人

②大宮=2279人

③浦和=2132人

④東京NB=1688人

⑤千葉=1370人

⑥広島=1233人

⑦AC長野=1175人

⑧マイ仙台=1173人

⑨EL埼玉=1039人

⑩新潟=957人

⑪相模原=956人

リーグ平均=1560人


比較すると、右肩上がりもクラブもあれば、右肩下がりのクラブもあることが分かる。スタジアムの収容人数や試合日の天候などにも左右されるため、結果だけで一概には言えないが、〝西〟のクラブの健闘ぶりが目立つ気がする。

あえてGWの平日に開催

セレッソ大阪ヤンマーレディースの試合で行われた「4種の集い」(WEリーグ提供)

次に個々の施策の詳細を紹介する。

セレッソ大阪ヤンマーレディースが悪天候にもかかわらず、6651人を集めた試合は、試合前に大阪府サッカー協会が「2024年4種の集い(シーズン開会式)」を開催。4種とは小学年代のカテゴリーで、今年上半期の大会に出場する大阪府内の約300チームの選手らが参加し、そのままWEリーグの試合も観戦した。

ユニークなのは、集いをセレッソ大阪ヤンマーレディースのメインスポンサーのヤンマーホールディングが特別協賛して「Presented by YANMAR」の形で開催したこと。過去には男子のJリーグの試合会場で行われたこともあったが、セレッソ大阪ヤンマーレディースがWEリーグに参入したことを踏まえ、女子の試合で初めて開催した。

ヤンマーホールディングススポーツビジネス室の村山勉室長は「子供たちに見てもらうことで、選手のモチベーションも高くなる。子供たちにとっても参考になると思う。チームにとっても協会にとってもチームを応援するヤンマーにとってもいい形になったのではないか」と話した。

一方、INAC神戸の「子ども応援デー」はゴールデンウイーク中の祝日ではなく、あえて平日を狙って開催。キックオフ予定時刻も参集、解散しやすいように正午とした。「スポーツで元気になる街へ」との理念の下、ふるさと納税をトップスポーツチームと連携した交流事業などに使う神戸市の制度を活用し、各学校から試合会場のノエビアスタジアム神戸までの交通費を支援する。

試合の観戦のほか、試合後にピッチサイドウオークなどのイベントも行い、子供たちにスポーツ、女子サッカーに親しんでもらい、リピーターになってもらいたいとの思いがある。

リーグも認知度を上げる

広島レジーナの「観客動員数1万人プロジェクト」も含め、これらの施策の特徴はクラブ〝単独〟ではなく、どこかとコラボレーションして集客能力を上げようと工夫していること。セレッソ大阪ヤンマーレディースは地域のサッカー協会やメインスポンサーと連携。INAC神戸は自治体とタッグを組んだ。広島レジーナは新スタジアムの魅力を前面に打ち出している。

また、INAC神戸、セレッソ大阪ヤンマーレディースは4月14日に行われた試合では、それぞれ大阪桐蔭高吹奏楽部とU-18(18歳以下)女子サッカーリーグ関西、近江高吹奏楽部とコラボ。こうした〝アイデア合戦〟は単なる集客にとどまらず、リーグの活性化につながる可能性があるように思う。

24日に行われた理事会後の記者会見で、WEリーグの高田春奈理事長は「(同じ運営母体の)男子の基盤を生かしたり、コツコツと施策をしたり、それぞれのクラブの強みを生かしておられる。(観客数は)一時的なものではなく、日ごろからの積み重ねでついてくることだと思うので、継続していけるように、リーグとしても、リーグそのものの認知度を上げるよう努力していきたい」と話した。

個人的には、集客数の順位もだが、1試合平均の観客数が2千人を超えるクラブの数も気になっている。WEリーグがスタートとして1年目が3クラブ、2年目が2クラブ、3年目の今季は25日現在で3クラブ。さまざまな課題がWEリーグにあるのを承知の上で、1846人にとどまっているINAC神戸の奮起などで2千人到達クラブが4~5クラブに増えれば、リーグの成長を実感できるのではないかと思う。〝集客合戦〟は大歓迎だ。

(サンケイスポーツ編集委員)

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