◆かき消されそうな音量でも
日本の選手がボールを持った相手に近づき、アナウンサーが「前からプレスにいきます」と実況した場面。すかさず加藤さんは「監督からプレスの指示が飛んでいた」と付け加え、戦術によるプレーだったことを説明した。ただ、その指示の声が聞こえていた視聴者は少ないだろう。雑音にかき消されてしまうくらいの音量だったからだ。エッフェル塔前で繰り広げられたブラインドサッカーの試合
加藤さんは初解説に向けた練習中に「映像が見えている人は耳からの情報があまり入ってこないようだ」と気づいた。ならば、労せず聞こえている情報は視聴者に有益になるのではないか―。そこに自らの価値を見いだした。◆「全盲の解説者」の意義は大きい
映像が見えていない解説者が、映像が見えている視聴者を手助けする。視聴者はそれまで「見えて」いなかったプレーの意図が見えるようになった。 日本が自陣でFKを与えた時には「ゴールまでの距離はどのくらいですか」とアナウンサーに協力を求め、二人三脚で警戒すべきポイントを伝えた。強烈なシュートの後には「すごい威力でしたね」と感嘆の声を上げた。足とボールが接した時の音の大きさから「すごい」と判断したのだった。解説者として関わったパラリンピックを振り返るブラインドサッカー元日本代表の加藤健人さん=東京都内で
ブラインドサッカーを伝える現場は発展途上にある。解説できる人材が少なく、実況が1人で話し続ける試合も珍しくない。だからこそ、加藤さんが今大会で実績をつくったことは意義深い。「競技の面白さを広めたい」と踏み出した一歩によって、さらに世界が広がりそうだ。(加藤健太) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。