スポークガードを手にする千葉工業大の中山昇准教授(左)とコミヤマの小宮山始社長=長野県小諸市のコミヤマで2024年9月13日午前11時15分、鈴木英世撮影

 パリ・パラリンピックで初めて金メダルを獲得した車いすラグビー。2016年リオデジャネイロ、21年東京と2大会連続銅メダルから悲願の頂点に立った選手たちを信州発の技術が支えた。車輪の破損を防ぐカバーを開発した元信州大工学部、現千葉工業大工学部の中山昇准教授(54)は「選手たちの努力が一番だが、私たちの研究、開発が貢献できたならうれしい」と語った。

 車いすラグビーは、車いす同士をぶつけることが許される激しい競技で、「車いすの格闘技」とも言われる。破損を防ぐため、車輪には「スポークガード」と呼ばれる円盤状のカバーが取り付けられている。中山准教授らの開発した「円盤」を、東京では選手12人中10人、パリでは12人中11人が使った。

 開発は、スポーツ庁の委託事業(独立行政法人日本スポーツ振興センターが再委託)として17年に始まった。競技用車椅子は、素早く操作できる必要があるため、スポークガードは丈夫さと同時に軽さが求められる。当初は「軽量・高強度」な素材の定番であるカーボンで試作したが、選手から「破損時に炭素繊維が飛び出し、手を傷つける恐れがある」との懸念が出て、断念した。

優勝を決め、スタンドに手を振る選手たち。車輪に取り付けられているのがスポークガード=シャンドマルス・アリーナで2024年9月2日、玉城達郎撮影

 中山准教授は「安全性も考える必要があり、非常に難しかった」。そこで候補に挙がったのが、金属加工業のコミヤマ(長野県小諸市)と共同開発していた防具用の素材だった。金属加工では、鍛造時に細かい金属片が飛び散ることがあり、体を守るために作業時に身につける防具は、強さと軽さが求められる。この素材を使い、東京大会に向けて開発を進めた。その結果、約555グラムあった従来品の重量を3分の2に減らし、約370グラムのスポークガードが完成した。

 ショベルカーなど建設機器の部品を製造するコミヤマの小宮山始社長(69)は「金属加工が専門で、全く違う世界。いろいろな可能性が開けた」と語る。

 委託事業が21年に終了した後、中山准教授とコミヤマは、スポークガード製造を続けるため「株式会社みらくる」を設立。パリ大会に向けて素材面から見直し、約305グラムまで軽量化することに成功した。海外の選手が使用するものより4割以上軽く、選手からは「スタートダッシュが速くなり、プレーが変わった」と高評価。金メダル獲得に貢献した。

 みらくるは、今後も耐久性の向上などスポークガードの改良を目指す。同社社長も兼ねる小宮山社長は「新素材はスポーツ用品だけでなく、介護や日常(の用具)にも使える」。スポーツ発の技術を生かし、さまざまな製品開発に取り組む予定だ。【鈴木英世】

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