大相撲は土俵に女性を上げない「女人禁制」。一方、アマチュア相撲は国内外に女子選手がおり、まだ数は少ないものの女性の審判も活躍している。7月28日に東京都内で開かれた東日本学生相撲個人体重別選手権(東日本体重別)では、埼玉県相撲連盟の公認審判・橋本なつきさん(23)が、学生力士たちの熱戦を裁いた。普段は看護師として働く1児の母が大会を支えている。【大村健一】
祖父の後追い、アマ相撲の世界へ
橋本さんは元々は女子相撲の選手だった。4歳のころ、祖父・節夫さんが開いた「草加相撲練修会」(同県草加市)で相撲を始め、中学時代は全日本女子相撲岐阜大会の軽量級で3位に入賞するなど活躍した。大相撲で活躍する阿炎(あび)関もこの道場出身だ。
高校には相撲部がなかったため、空手部と卓球部に所属。「相撲は太っている人がやるものという周囲のイメージに悩んだ」と距離を置いた時期もあったものの、道場を手伝うなど関わりは続いた。
その後、専門学校で看護師免許を取得。現在は訪問看護師として勤務している。日々の多忙さもあり、相撲からしばらく遠ざかっていた橋本さんが大会に復帰したのは2023年。県相撲連盟から「審判として大会を支えてほしい」と打診があったのは、その頃だった。節夫さんは2020年に亡くなっていたものの、生前にさまざまな大会で審判を務めていたこともあり引き受けることにした。審判をやっていることを職場で話題にすると、「女性って土俵に上がれるの?」と驚かれることも多いという。
こんなに違う 行司と審判
テレビなどでよく見かける大相撲の行司とアマチュア相撲の審判には、さまざまな違いがある。行司が烏帽子(えぼし)や直垂(ひたたれ)など和装で軍配を手に裁くのに対し、審判は洋装だ。いずれも白のシャツとスラックス姿。白手袋をはめ、白い靴をはき、蝶(ちょう)ネクタイを着ける。軍配は持たない。
立ち合いの所作も異なる。アマチュアでは、主審の「両手を同時について」というかけ声で、相対する二人の選手に対して両手を同時に土俵につけることを徹底する。その後、主審は「引きますよ」と合図をした後で、「はっけよい」の声でぶつかり合う。大相撲も両手をつくことに変わりはないものの、片手ずつ土俵につくこともでき、「引きますよ」の合図もない。競技自体でみると、決まり手は共通である一方、アマチュアは横からの張り手が禁止されており、ルールに違いがある。
軽快に裁く取組 「将来は指導者も」
アマチュア相撲の審判も、現在は男性が中心。橋本さんによると、東日本や西日本など大きな大会で主審を務める女性は2人。多くは県大会レベルにとどまるという。橋本さんは「最初はなじめるのか不安もありました。でも、年上の皆さんに孫のようにかわいがってもらいながら、相撲のことを教えてもらっています」と話す。
女性審判が土俵上で軽快に取組を裁く様子は、大相撲では見られない光景だけに、観客の注目度も高い。「判定が安定しているねと褒められた時にやりがいを感じます。これからも経験を積んで、より説得力のある審判になりたい」と笑顔で意気込む橋本さん。今後は審判だけでなく、女子相撲の指導者も目指しているという。
堺市・大浜公園相撲場では、9月1日正午から「第49回全国学生相撲個人体重別選手権大会」が開かれ、全国から日本一を目指す選手たちが集う。橋本さんは22日に千葉県である全日本実業団相撲選手権大会に派遣される予定で、今回の体重別選手権では取組を裁くことはない。しかし、過去に審判として接してきた選手も多く出場する。
学生力士たちに、大学卒業後も相撲に関わって競技の普及に努めてほしいという橋本さん。「大相撲に限らず、卒業後も相撲に携われる環境が少しずつ整ってきました。続けることで、楽しさをより感じられる日が来るはず。一生懸命、頑張ってください」。出場する選手たちにエールを送った。
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