夏競馬のパドック。暑さ対策は馬にとってもファンにとっても大切だ=北九州市の小倉競馬場で2012年7月28日午前9時38分、加古信志撮影

 前回のコラムでは、栗東トレーニングセンター(滋賀県栗東市)で調教している馬が北海道の競馬場で出走する際のスケジュールを紹介した。今回は栗東からレース当日に馬を競馬場へ輸送し、出走するケースについてお話ししたい。

 今週は中京競馬場(愛知県豊明市)での開催なので、栗東で調教している馬はレース当日に競馬場に向けて出発。到着後は、出張馬用の馬房でレースまで待機する。

 通常はレースの60分前までに「装鞍所(そうあんじょ)」と呼ばれる場所に集合する。ここでは馬体や蹄鉄(ていてつ)の検査、馬体重の測定などをする。出走馬の馬体重が発表されるのは、このタイミングになる。その後、鞍(くら)を装着するなどしてパドックに向かう準備をする。

 検査や測定にはそれほど時間はかからず、パドックへ移動するまでに時間の余裕がある。通常は体を動かす引き運動をしてレースに備えるのだが、夏場は馬によって過ごし方に違いがある。

 馬を担当する人に取材すると、夏場は引き運動をせず、馬房内で安静にしているというケースをよく聞く。昭和、平成初期の時代は運動させることが当たり前だった。その時代を知る人からすれば異例のことだろう。今は安静にするだけでなく、水で馬体を冷やすこともあるそうだ。出走直前の馬が体を冷やすなんて考えられない、という意見もあるかもしれない。

 しかし、馬体を冷やしてもレースでのパフォーマンスは変わらず、レース後の高体温や多量の発汗を防ぐことができるという、JRA(日本中央競馬会)競走馬診療所の検証結果もある。

 また、「通常時はレースの60分前」という装鞍所への集合時間が、今年から暑熱対策として変更された。第2回新潟開催(7月27日~8月4日)は20分遅くなり、レースの40分前集合となった。

 これに伴い、パドックでの周回時間も短くなった。馬にとっても、人にとってもすごく効果的だったようで、競馬関係者からは「夏の間はずっと40分にしてほしい」という声が圧倒的だった。

 ファンへの馬体重の発表時間が遅くなることやパドックの時間が短くなる点はある。しかしファンにとっても、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下で、パドックに長い間居ることがメリットだとは思えない。私も今年の札幌競馬場のパドックで厳しい暑さを体感した。

 高校野球では熱中症対策として、試合開始時間を朝と夕方に分ける2部制を試験的に実施。イニング数を短縮する「7回制」の導入も議論されている。競馬でも馬優先、人優先の暑熱対策が行われることを切に願う。(競馬ライター)

いうち・としあき

 1976年生まれ。東大阪市出身。高校の同級生の影響で競馬に興味を持った。92年の菊花賞(GⅠ)を自身と同じように小柄なライスシャワーが制し、その魅力に取りつかれた。大阪経大卒業後、競馬予想サイトの運営会社勤務を経て、フリーライターに。

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