波のトンネル(チューブ)を滑るようにくぐり抜ける「チューブライディング」。多くのサーファーが憧れるこの技は、見た目以上に高い技術と判断力が求められる。初の五輪代表入りを決めた松田詩野(TOKIOインカラミ)は、世界有数の危険さで知られるフランス領ポリネシアのタヒチ・チョープーの波をこの技で攻略し、メダル獲得を狙う。

海底が砂地で動くため、波が比較的小さかった2021年東京五輪会場の釣ケ崎海岸(千葉県一宮町)とは違い、海底がサンゴ礁で形成されるチョープーの波は、通常時で3~5メートルと高く、7メートル以上になるときもある。チューブの波を捕まえてライディングを成功させれば、満点の10点に近い高得点が期待できる。

陸から見ると、左から右へ波が崩れていくのもチョープーの特徴だ。松田は、右足前でサーフボードに立つ「グーフィースタンス」で、波の壁と向き合う形でチューブに乗る。日本代表の田中樹コーチは「波の中に入ったとき、グーフィースタンスはコントロールやスピードの面でやや有利」と指摘する。波を背に進むより、両目で波の状況を捉えられるため、不測の波にも対応がしやすい。人間は前方に体重をかけて力を入れる方がバランスが取れるため、スピードも出しやすい。

危険と隣り合わせの技でもある。途中でバランスを崩して失敗すれば、一気に巨大な波に飲み込まれる。「ぐるぐるもまれて、体中から酸素が出てパニック状態になる。海底が砂浜であれば足で蹴って浮上できるが、サンゴは足の裏を切ってしまうので、腕の力だけで上がり、体が浮くのを待つしかない」と田中コーチ。恐怖心に対抗するため、松田は息を吐いてから止める練習を重ねてきた。今では1分半は、息を止めることができるようになったという。

近年、チューブライディングを成功させる女子選手は増えてきた。一方、日本の女子サーファーは高い波での競技経験が少ないこともあり、できるのは指折り数えるほどしかいない。

松田は昨年6月、ワールドゲームズ(WG)でアジア勢最上位に入り、五輪切符を事実上獲得した後、練習に取り組んできた。田中コーチは「波に対して恐怖心を持つ選手が多い中、(松田からは)1本でもトライするという気持ちを感じた。波への対応力も高く、チューブライディングが成功すれば、面白い戦いになる」と期待する。

松田は「最初はテイクオフ(立ち上がる)のタイミングが難しかったが、(波の中に)入っているうちに慣れてきた」と力強い。「海と調和して一番いい波に乗ることが勝つカギ」。成功のイメージを育て、強大な波に果敢に挑む。=おわり

(神田さやか)

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