青鳥特別支援学校の久保田浩司監督=東京都千代田区で2021年3月6日午後2時48分、尾形有菜撮影

 今夏の第106回全国高校野球選手権西東京大会で、知的障害のある生徒が通う青鳥(せいちょう)特別支援学校が単独チームで出場し、話題となった。ただ、野球部創部や都道府県高校野球連盟への加盟はハードルが高く、特別支援学校の生徒が野球をできる環境は少ない。普及の鍵は何か。同校の久保田浩司監督(58)に聞いた。【聞き手・谷口拓未】

 青鳥は2023年5月に東京都高野連に加盟した。同年夏の西東京大会は他校と連合チームを組み、部員が12人となった24年は単独チームで出場した。

 1回戦で東村山西に0―66で五回コールド負けし、選手は「悔しい」と言っていた。だが、未経験者の集まる特別支援学校の生徒が15個ものアウトを取ったのだから意義は大きい。

 今は、再び単独出場する秋季大会に向け、毎日練習している。負けがあったからこそ、頑張ろうと思えている。

目標とする大会なくトライ

 特別支援学校に野球部が広まらないのは、特別支援学校のみが対象の野球大会がなく、目標とする大会のない部活動を設置しにくいという事情があるのだろう。

 そうであれば、都道府県高野連に加盟し、甲子園を目指す大会にトライしたらいい。青鳥は都高野連に22年12月から加盟を打診した。やり取りを繰り返し、23年春に現場を視察してもらい、加盟につながった。

 それまでは、どんな子がプレーしているのか、安全面に問題はないのかといった実情が理解されていなかったのではないか。実際に練習を見てもらったことで、野球が好きで、懸命にボールを追いかけていることを感じてもらえたと思う。

 私は以前、(知的障害者に)ソフトボールを指導していた際に、健常者にも十分太刀打ちできると考えた。高校野球にトライしてもやっていけるだろうと思い、踏み出すことにした。

「原石の選手たくさんいる」

 21年3月に、特別支援学校生が野球の合同練習などを行う「甲子園夢プロジェクト」を立ち上げ、全国の特別支援学校の生徒たちに声をかけた。

 当初11人だった参加者は、今は50人を超えることもある。それだけ野球をやりたい生徒、やらせたい保護者がいる。特別支援学校の教員には野球経験者もいる。それでも「危ない」といった懸念があり、希望する子の願いはかなっていない。

 重要なのは教員の存在だ。野球を一緒にやりたいという教員に前に出てもらい、希望者を集める。そして、野球部を作るために学校と話し合い、都道府県高野連と折衝する。大変だが、青鳥などが高野連加盟の前例を作り、単独出場もした。次の事例はもっとやりやすいはずだ。

 学校によっては野球経験のある教員がいない場合もある。ただ、いずれにしても教員が動かなければ現状は変わらない。

 原石の選手はたくさんいて、磨くだけだ。これからどんどんと「次」が出てきてほしい。

 そうすれば今年の青鳥のように騒がれることはなくなる。通常の高校野球のように、大会で活躍した時にメディアで紹介されるような世界になればと願う。

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