【小松大谷-大阪桐蔭】試合に敗れ、肩を落としてアルプススタンドにあいさつに向かう大阪桐蔭の選手たち=阪神甲子園球場で2024年8月14日、山崎一輝撮影

 開催中の第106回全国高校野球選手権大会で、優勝候補や優勝経験校が大会前半で相次いで姿を消した。春夏連覇を目指した健大高崎(群馬)、春夏通算9回制覇の大阪桐蔭などだ。背景に何があり、当事者や関係者はどう受け止めたのか――。

低反発バットが「逆に有利に」

 「信じられない思いです」。小松大谷(石川)の西野貴裕監督は大阪桐蔭に3―0で零封勝ちし、驚きの表情を浮かべた。3回目の出場の小松大谷は1回戦で甲子園初勝利を飾ったばかりだった。

 右腕・西川大智投手(3年)は130キロ台の直球と緩急を使い、テンポ良く打たせて取る投球で相手打線を散発5安打に封じ込め、92球で完封した。夏の50戦目だった大阪桐蔭は初の無得点に抑えられた。

【智弁学園-健大高崎】試合に敗れ、涙を流す健大高崎の選手たち=阪神甲子園球場で2024年8月14日、渡部直樹撮影

 低反発の新基準の金属バットが今春に導入され、従来よりも打球速度や飛距離が落ちている。打ち勝つことは難しくなっており、大阪桐蔭の4番・徳丸快晴選手(3年)は「バットが変わったのをどうこう言っても仕方ないのですが、それに対応できなかった」と敗れた一因を自己分析した。

 その直前の試合では、史上8校目の春夏連覇を狙った健大高崎が1―2で智弁学園(奈良)に敗れた。健大高崎がチェンジアップを巧みに駆使した智弁学園の左腕・田近楓雅投手(3年)を攻略できず、10三振を喫した。

 今春の選抜大会準優勝の報徳学園(兵庫)、春夏計4回優勝の智弁和歌山、2017年夏優勝の花咲徳栄(埼玉)も打線が相手投手を捉えきれず、ロースコアの試合や接戦を落とした。相手が久々の勝利や甲子園初勝利を挙げたケースも多かった。

【霞ケ浦-智弁和歌山】試合に勝利し、校歌を歌う霞ケ浦の選手たち=阪神甲子園球場で2024年8月13日、山崎一輝撮影

 延長十一回タイブレークの末に5―4で智弁和歌山を破り、甲子園初勝利を挙げた霞ケ浦(茨城)の高橋祐二監督は「タイブレークは力の差があっても何が起きるか分からないので、延長になったら分があると思っていた。うちは打力がないので、(新基準の金属バットが)逆に有利になった」と振り返った。

「長打を打つのは難しくなった」

 高校野球界の名将や解説者はどう見るのか。

 19年夏の甲子園で履正社(大阪)を初優勝に導いた岡田龍生・東洋大姫路(兵庫)監督は「大阪桐蔭戦も、前のバットだったら外野の頭を越えるような打球がアウトになる場面があった」と印象を述べた。さらに、「(強力打線を擁しても)相手投手に丁寧に投げられると、打つのは難しい。接戦になれば(どちらに転ぶか)分からないし、タイブレークになったらもっと分からない」と語り、低反発バットとタイブレークの影響を挙げた。

【霞ケ浦5-4智弁和歌山】試合に敗れ、引き揚げる智弁和歌山の選手たち=阪神甲子園球場で2024年8月13日、山崎一輝撮影

 東邦(愛知)と大垣日大(岐阜)を率いて歴代7位タイの春夏通算40勝の阪口慶三さんは「高校生なので、気持ちの持ちようがプレーにつながることもある。(甲子園で選手を)落ち着かせるのは簡単なことではない」と本来の実力を発揮する難しさを指摘する。

 東邦で1977年夏の甲子園で準優勝し、22年夏までNHK甲子園解説者だった大矢正成さんは「前評判の高いチームほど先取されたら焦りやすくなるし、大歓声の中でメンタルを修正するのは難しい」。期待の大きい選手たちが大舞台で受ける重圧をおもんぱかった。【黒詰拓也、荻野公一】

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