智弁学園の知花琉綺亜主将(3年)と交換したタオルを掲げる智弁和歌山の上田潤一郎捕手(3年)=智弁和歌山の塩健一郎部長提供

 第106回全国高校野球選手権大会に、系列校である智弁学園(奈良)と智弁和歌山がそろって出場した。同時出場は「智弁対決」となった決勝が話題となった2021年以来3年ぶり。智弁和歌山が霞ケ浦(茨城)に惜敗したことで直接対決とはならなかったが、両校は昨年冬にある場所で意外なかたちで交流し、甲子園のグラウンドでの再会を誓い合っていた。

 両校は同じ学校法人が隣県に設置。1965年に智弁学園を創立した後、78年に智弁和歌山が兄弟校として設立された。どちらも野球の強豪校として知られるが、夏の全国大会では、智弁和歌山の優勝が3回に対して智弁学園は0回。智弁学園が優勝に最も迫ったのが、21年の決勝だった。

 今年の3年生は22年春に入学。智弁学園の知花琉綺亜(るきあ)主将(3年)によると、選手らは中学3年の時に初優勝を懸けた「智弁対決」で同校が惜しくも敗れる様子をテレビなどで観戦していた。そのため、智弁和歌山は因縁の相手との意識が強いという。

切磋琢磨する仲間

 だが、そうした存在から、切磋琢磨(せっさたくま)する仲間へと変わる機会があった。といっても練習試合や合同練習ではない。部員たちが合同で出掛ける修学旅行だった。

 智弁和歌山によると、両校のスポーツコースに所属する生徒たちが秋季大会の日程などを考慮して一般生徒とは別日程で修学旅行に行くようになったのがきっかけ。09年に始まり、今は野球部のみで続いている。

 23年は12月5~8日の3泊4日で、両校の野球部員約30人で北海道を訪れた。札幌や小樽などを観光し、学習体験施設「ウポポイ」(白老町)でアイヌの暮らしや文化を学んだり、千歳水族館を楽しんだり、寮生活の部員らにとって貴重な息抜きの時間となった。

修学旅行でエスコンフィールド北海道を訪れた智弁学園と智弁和歌山の野球部員ら=北海道北広島市で2023年12月7日撮影、智弁学園の八尾大翔選手提供

 中でも多くの選手が思い出として挙げるのが、北海道日本ハムファイターズの本拠地、エスコンフィールド北海道(北広島市)の訪問だ。最新設備がそろった球場を見学し、グラウンドを歩くなどの特別な体験もあったという。

野球の話題に花が咲く

 宿泊先のホテルでは話に花が咲いた。ともに近畿圏にある学校だけあって、部員の一部は旅行前から旧知の仲だ。智弁和歌山の上田潤一郎捕手(3年)は奈良県香芝市出身。智弁学園の青山輝市部員(3年)とは中学時代に同じボーイズチームでプレーをしており、久々に顔を合わせた。智弁学園の八尾大翔選手(3年)と智弁和歌山の中西琉輝矢投手(3年)はボーイズリーグでの引退試合以来の再会。話題は自主練習のメニューや中学時代の思い出など、やはり野球が中心になったという。

 交流の輪はさらに広がった。上田捕手と知花主将は青山部員を介して互いのことを知っており、修学旅行で直接対面。寮生活や練習の違いなどの話で盛り上がった。智弁和歌山は昨年春の、智弁学園は昨年夏の甲子園出場記念として作った名前入りのオリジナルタオルを交換した。「また夏の甲子園で会おう。対戦できたらいいな」と誓い合ったという。

 4日の組み合わせ抽選会で知花主将は「智弁和歌山は『絶対に倒さなければいけない相手』。対戦できるように勝ち上がりたい」と闘志を燃やし、上田捕手も「奈良智弁とやりたい」と話していた。グラウンドでの再会はかなわなかったが、上田捕手は試合後、「とにかく優勝を目指してほしい。苦しい試合もあると思うが皆で乗り切ってほしい」と智弁学園に思いを託した。

 知花主将は「目標は甲子園出場ではなく、日本一」と公言する。21年の決勝で壁として立ちはだかった系列校の思いも乗せ、悲願の日本一に向けて突き進む。【田辺泰裕、藤木俊治】

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