滋賀学園の高橋侠聖選手が持ち歩いている千穂さんの遺骨が入ったペンダント=滋賀県東近江市建部堺町で、2024年8月9日午後1時31分、菊池真由撮影

 夏の甲子園に出場している滋賀学園の左腕、高橋侠聖(きょうせい)選手(3年)がいつも持ち歩いている小さなボールのペンダント。中には亡き母の千穂さんの遺骨が入っている。高橋選手は胸の中の千穂さんとともに甲子園に臨んでいる。

 高橋選手は父伸浩さん(44)に言わせれば「ママっ子」。寝るときも一緒、買い物も千穂さんにくっついていた。だが、高橋選手が5歳の時、千穂さんはがんで亡くなった。

 アンパンマンミュージアムに家族で行ったこと、友達とけんかして怒られたこと――。千穂さんと過ごした時間はとてもあたたかな日々だった。「明るくて笑顔がすてきだった」と笑みをみせる高橋選手。その笑顔は父方の祖母によると千穂さんそっくりだという。

 「好きな野球でこれからはお父さんを支えてあげて」。亡くなる直前の千穂さんと約束した。千穂さん、伸浩さん、高橋選手の3人とも野球が大好きだった。チームに入り、熱心に野球に取り組むようになった。今は家族が増え、小学1年生から高校2年生までの6人の妹と弟がいる。親が仕事でいない時には、練習の合間を縫って世話をしてきた。

「力を貸して」苦しい場面で祈る

 強豪校の主戦投手としてたくましくなった今も「ママっ子」だった頃と同じように千穂さんへの思いを大切にしている。マウンドで1球目を投げる前のルーティン。試合ではペンダントはダッグアウトのバッグにしまっているが、「いつも自分の胸の中にいる」と千穂さんのことを考えて胸に意識を集中させ、試合に臨む。

滋賀学園の高橋侠聖選手が持ち歩いている千穂さんの遺骨が入ったペンダント=滋賀県東近江市建部堺町で、2024年8月9日午後1時31分、菊池真由撮影

 試合中の苦しい場面は千穂さんに祈る。これまでも追い込まれた時に一番近くで一緒に戦ってくれた。有田工(佐賀)との1回戦。四回途中から2番手で登板し、8―4の八回に2死満塁のピンチを作ってしまった。相手に追い上げの勢いを与えるわけにはいかない。「力を貸して」と千穂さんに語りかけると、気持ちがリセットできたように落ち着いた。後続を打ち取り、リードを守り切ってチームを勝利へ導いた。

 「ナイスピッチだったよ」とめったに褒めない伸浩さんの言葉がうれしかった。13日予定の花巻東(岩手)との2回戦も胸の思いとともに勝利を目指す。【菊池真由】

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