「エンジョイベースボール」を掲げた慶応(神奈川)が昨夏の甲子園を制してから1年。今大会は春夏計2回優勝の早稲田実(西東京)が9年ぶりに夏の聖地へ帰ってきた。高校野球界では「早慶」の象徴である両校だが、早稲田実は伝統の「一球入魂」で挑む。
「野球は球遊びじゃなく……」
早稲田実が夏の甲子園で優勝したのは、「ハンカチ王子」こと斎藤佑樹投手を擁した2006年だ。その年に生まれた宇野真仁朗主将は「慶応はエンジョイベースボールを結果で示した。(自分たちも)強い早実を取り戻すために、勝ち進まなくてはならない。第1回大会から甲子園に出て、偉大な先輩たちを生んできた早稲田のプライドを持って、一球入魂で戦いたい」と意気込む。
早稲田実が掲げる「一球入魂」の精神は、早大野球部の初代監督で「学生野球の父」と呼ばれた故・飛田穂洲(すいしゅう)が提唱した。文字通り、一つのボールに精神を集中させ、全力を注ぐ。その教えは、大正、昭和、平成、令和と時代を超えて、早稲田の野球人に受け継がれてきた。
「野球は球遊びじゃなくて、命をかけてやるもの。失敗を恐れず先進的に取り組む慶応の野球はリスペクトしているが、『一球入魂』の精神が早稲田野球の原点」
そう語るのは、15年夏の甲子園で4強入りした時の主将で、「4番・捕手」だった加藤雅樹選手(現・東京ガス)だ。甲子園では清宮幸太郎選手(日本ハム)らとクリーンアップを組み、清宮選手と2者連続本塁打も放った。
早大でも主将を務めた加藤選手は「(OBの)王貞治さんも『命を取られる覚悟で野球をやっていた』とおっしゃっている。野球を『楽しむ』のではなく、ものすごい緊張やプレッシャーをはねのけることに『愉(たの)しみ』を見いだす。それが野球選手としての喜びであり、価値だというのが早稲田の考え方」と説明し、「長く野球をやっていると、1球で勝敗や人生が決まる怖さを知る。練習から1球を大切にする気持ちを、今の早実の選手たちも持っていると思う」と話す。
今大会の出場校で最多30回の出場を誇る早稲田実は、王さん、荒木大輔さん、斎藤さん、清宮選手と甲子園を彩るスターを輩出してきた。甲子園開場100周年の節目につかんだ復権の好機。「若き血」に沸いた前回大会から「紺碧(こんぺき)の空」へ。脈々と受け継がれてきた伝統を胸に、18年ぶりの頂点へ突き進む。【皆川真仁】
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