岡山大会を制して甲子園出場を決めた岡山学芸館の丹羽知則投手(右)は兄・淳平さんと肩を組んで記念撮影する=淳平さん提供

高校野球・夏の甲子園1回戦(10日)

聖カタリナ学園(愛媛)―岡山学芸館

 兄が5年前に甲子園のマウンドで体験した悲痛な出来事を胸にやってきた選手がいる。岡山学芸館の二枚看板の一角で背番号「11」を着けた右腕・丹羽知則投手(3年)。5歳上の兄は投手の受傷事故を防ぐために高校野球で今春から導入された低反発の金属性バットのきっかけになった人物だ。

 「もう尋常じゃないくらい(顔が)腫れていて本当に衝撃でした」

 丹羽投手がそう振り返る衝撃とは、2019年夏の甲子園大会初戦の2回戦・岡山学芸館―広島商戦だ。岡山学芸館の先発左腕で3年生だった兄・淳平さん(22)が一回、投球後のマウンドで強烈なライナー性の打球を顔面に受けた。左ほおを骨折し、救急車で運ばれた。

2019年夏の甲子園2回戦、一回表広島商2死で打球を顔面に受け、担架で運ばれる岡山学芸館先発の丹羽淳平投手=阪神甲子園球場で2019年8月10日、玉城達郎撮影

 丹羽投手は当時中学生だった。野球チームの練習後に知り、兄の無事を祈ったことを今でも覚えている。「連絡を取り合っていなかったので状況がわからなかったのですが、次の試合はもう無理だろうと思っていました」。しかし、6日後の3回戦のアルプススタンドを訪れると、兄の姿が甲子園のマウンド上にあった。「次の試合に出場したのはすごいなと率直に思いましたね」と振り返る。

 淳平さんは、作新学院(栃木)を相手に先発し、3回を投げて5失点。チームは敗れたが、第4打席では安打も放った。

 「あのヒットは目に焼き付いたというか、鳥肌が立ちました。忘れないです」。自らも同じ道に進むきっかけになった。「兄を見てこの学校で甲子園に行きたいと思った。ちょっと恥ずかしいですけど、憧れの存在ですね」

 地元は兵庫県だが、兄と同じ岡山学芸館に進み、寮生活で努力を重ねた。最上級生になった今夏の岡山大会では5試合で計20回余りを投げて1失点。細身の長身でマウンドでの風貌は兄とも重なる。最速140キロの角度のある直球とチェンジアップのコンビネーションがさえた。関西との決勝は1点リードの九回から2番手で登板し無失点。兄の世代以来、5年ぶりの甲子園出場に大きく貢献した。

 大会前に淳平さんからは「最後の夏だし、誰もが目指す甲子園。一番は楽しむこと。マウンド上で音楽に乗るくらい、ノリノリな時が一番良い球が投げられる」とアドバイスを受けた。丹羽投手は「奪三振の多さやピンチでの強さは兄に絶対負けていないと思います」と自信を見せた。【長宗拓弥】

新基準の低反発バット 2022年度から2年間を移行期間とし、今春から完全移行した。最大直径が従来のバットより3ミリ短い64ミリに縮小。900グラム以上の重量制限は同じだが、球の当たる部分を3ミリから4ミリ以上に厚くすることで反発性能を抑えた。投手のけが防止や「打高投低」の是正による投手の負担軽減も期待されている。

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