高校野球・夏の甲子園1回戦(9日)
○西日本短大付(福岡)6―4金足農(秋田)●
西日本短大付の右腕・村上太一投手は1人で投げ抜き、九回もマウンドに立った。2点差に迫られた九回2死一、二塁で同点の走者を背負った場面。甲子園全体が相手の応援に回る異様な雰囲気に包まれた。だがエースは、笑みを浮かべていた。
球速は140キロに満たなかったが縦に落ちる変化球を効果的に織り交ぜ、八回まで被安打4で三塁すら踏ませない。相手のスコアボードにはゼロが並ぶ圧倒的な投球だった。だが、甲子園はそう簡単には終わらせてくれない。九回は3連打で1点を失い、犠飛、失策も絡んでさらに失点が重なった。金足農への声援が甲子園を包み込むようにみるみる膨らんだ。
だが、村上投手は冷静だった。「自分たちが勝っていればこんな雰囲気にもなるよねって」。春からマスクをかぶる2年生捕手の山下航輝選手も「ワンバウンドでもいいので、とにかく低めに投げてきてください」と指示するほど落ち着いていた。村上投手は「自分も頑張るけど、一緒に戦っているメンバーをもっと信じよう」と、丁寧に打たせる意識をより強くした。
最後の打者の飛球が二塁手のグラブに収まると右手をつき上げた。ベンチで見守っていた西村慎太郎監督も「九回は球が抜けていて心配したが、最後まで村上の戦う姿勢がみんなを一つにしてくれた」とたたえた。
西日本短大付は1992年の第74回大会で優勝を経験している。ただ、それ以降は出場が途絶えていたが、2003年に西村監督が母校の指揮官に就任すると、翌04年には12年ぶりの甲子園切符をつかんだ。それからは10、21年にも出場を果たしたが、3大会で1勝止まりだった。西村監督は日本ハムの新庄剛志監督とともに甲子園を目指した同級生だ。
14年ぶりの勝利を挙げて、次に見据えるは優勝した92年以来32年ぶりの2勝目。西村監督は「全員で勝ち切れたことが本当に大きい。一戦一戦全てを出せるように挑戦していきたい」。今夏は古豪復活に向けた手応えがありそうだ。【林大樹】
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