陸上 男子110メートル障害決勝(8日・フランス競技場)
村竹ラシッド=13秒21(5位)
中盤から完全に抜け出して金メダルを獲得したグラント・ホロウェー(米国)は別として、村竹ラシッドは10台あるハードルのうち7台目まで3位にいた。フィニッシュ付近までメダル争いをしていたからこそ、この種目で日本勢初の決勝進出で5位という結果に「『まだまだ強くなりそうだな』って思いました」と、さらなる成長を実感していた。
1台目からハードルにぶつかるが、すぐに立て直して上位争いに踏みとどまる。ただ終盤に入る手前で勢いを制御できずにバランスを崩しかけてしまったという。安定感のあるレース運びの重要性を再認識した。
足が速いから、という理由で担任から陸上部に入るよう勧められたのは小学5年生のころだ。「渋々入部した」と、決して前向きではない姿勢から競技人生がスタートしている。
「練習がきつすぎる」と、中学・高校進学のタイミングでやめようと思ったという。でも「区切りがつくまでは続けよう」と、妙な律義さもあった。中途半端に投げ出さないでいるうちに、成績は伸びた。
千葉・松戸国際高時代に2019年全国高校総体を制すと、順天堂大から声がかかった。順天堂大教授で、1995年世界選手権男子400メートル障害7位の山崎一彦氏(日本陸連強化委員長)との出会いだ。
山崎氏は、村竹のガツガツしていない態度が成長には好都合だったと考えている。
「高校に入って急に伸びた選手。本人も(トップ選手になる)準備ができていなかったのだと思う。実力も未知数なのに『五輪に行く』などと大きな目標も立てず、現実主義だったのがよかったのでは」
とはいえ、身体能力は魅力的だった。
欧米やアフリカの選手と同様に骨盤が前傾するため股関節の可動域が広く、自然と前に進みやすいとされる。山崎氏はこう評す。
「前傾姿勢になればなるほど、人間は『おっとっと』って転びそうになってしまう。でも、彼の場合は腰が入った状態で自然と足が前に出る。『こんな動きができるの?』と教えられています」
さほど力を使わず、効率的に前に進むことが自然にできることが、持ち味の中盤からの加速につながっている。
身長179センチと、世界の強豪に比べれば上背がある方ではない。それでも、決勝を終えて「この体でも勝負できることは分かった」。フィニッシュした途端、よぎったのは25年に東京で開催される世界選手権だった。「メダルを取る。逆襲してやりたいと思います」。世界のトップになる準備は、もうできた。【パリ岩壁峻】
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