スケートボードに魅了された若者たちが遠方からも通ってくる「ムラサキパーク立川立飛」=東京都立川市で2024年7月30日、磯崎由美撮影

 ストリートで男女合わせて三つのメダルを獲得し、日本の新たなお家芸として脚光を浴びるスケートボード。オリンピック競技に初採用された東京大会以降は国内各地にスケートパークが相次ぎ誕生し、競技の裾野が広がっている。人気のパークを訪れると、幼い子から若者まで幅広いスケーターたちがまじりあい、それぞれのハードルに挑む姿があった。

 東京都立川市の「ムラサキパーク立川立飛」。堀米雄斗選手らとスポンサー契約するムラサキスポーツが2023年7月、関東最大級の屋内パークとして開設した。週末は多い日で約100人が利用し、初心者向けスクールも随時開催している。

 インストラクターも務める従業員の林秀晃さん(46)は「スケートボードの売り上げは東京五輪が開催予定だった20年に急増し、コロナ禍でも『密』にならないスポーツとして人気が続きました。競技環境も整い、ブームというより定着した印象があります」と話す。

スケボーは米国発祥

「スケートボードの技は上達度だけでなく個性が大事」と語る林秀晃さん。パークに併設されているショップにはファッショナブルなボードが並ぶ=東京都立川市で2024年7月30日、磯崎由美撮影

 米国発祥のスケボーは日本では1970年代半ばに紹介されて以降、ブームの波を繰り返してきた。アマチュア大会2位の経験がある林さんの原点は中学時代。「ストリートのファッションや音楽も流行し、クラスの男子のほぼ半分がやってました。でも専用練習場は限られ、ガタガタの道を走ったり、ベンチに自分たちで金具をつけたり」

 今はパークが増え、技もスマートフォンの映像で手軽に学べる。一方で競技レベルは年々上がり、選手として長く続けるには苦労も多いという。

 スケボーの魅力を尋ねると、林さんは「七転び八起き」と表現した。「スクールではけがをしない乗り方も教えますが、失敗して転ぶのは怖いし、リスクはつきまといます。でも転ぶ不安より、練習を重ねて成功した時の楽しさは格別です」。そして「自主性」もキーワードだ。「どんな技に挑戦し、どこまでやるか。決めるのは自分。スキルアップしたければ一段ずつ、限界に挑戦していくしかありません」

 幼い頃の堀米選手や白井空良選手も別のパークで見ていたという林さん。「大勢の子の中で、あの2人の滑りは飛び抜けて個性が輝いていました。今ここにも、伸びそうだと思える子たちがいますね」

 堀米選手が2連覇を果たした直後の7月30日も、ムラサキパークでは小さな子から若者までが思い思いの技に挑んでいた。ジャンプして、転んでは起き上がり、ボードを拾ってはバンク(斜面)を駆け上がっていく。未就学児もボードに乗って懸命にバランスを取っている。

 スケボー歴4年の奥村栄祐さん(12)はバンクからの飛び出しを繰り返していた。「一番楽しいのは、技が決まった時。そしてできることが増えた時。友達と一緒にできるのもいい」

僕も堀米選手のようになりたい

「堀米雄斗選手のようなスケーターになりたい」と話す奥村栄祐さん(左)と川村禅琳さん=東京都立川市のムラサキパーク立川立飛で2024年7月30日、磯崎由美撮影

 この日はスケボーを通して知り合った四つ上の川村禅琳(ぜんり)さん(16)も来ていた。小4で始めた川村さんはレベルアップを目指して昨年仙台から単身で上京し、地元の通信制高校に通いながら首都圏のパークで腕を磨いている。堀米選手が見せた大逆転劇に興奮さめやらぬ様子で、「あきらめないことの大切さを学びました。僕もあんな選手になりたい」と声を弾ませた。

 バンクの上から先に川村さんが滑り出し、ジャンプしてレールに乗り、スムーズに滑っていく。その後ろ姿を、栄祐さんがじっと見つめている。

 ベンチで見守っていた栄祐さんの母恵子さん(47)が教えてくれた。「自分より小さい子にできることを教えたり、年上の子に教えられたり。大人が関わらなくても子ども同士で高め合っていくんです」。別のパークでは社会人とも知り合いになり、学校の勉強のやり方まで教えてもらったという。

 恵子さんが長男の栄祐さんと次男にスケボーを始めさせたきっかけは、コロナ禍だった。通わせていたバレエ教室のレッスンが「密になる」と中止に。何か続けられる運動はないかと考え、屋外で一人でできるスケボーを思いついた。近所のパークに連れて行くと、年上の子たちが教えてくれて、行きつけのショップもできて、仲間が増えた。

ボードを自由に走らせる奥村栄祐さん=東京都立川市の「ムラサキパーク立川立飛」で2024年7月30日、磯崎由美撮影

 「うちの子も最初は骨折もしたけれど、転び方も習得して、度胸がついたようです。スケボーにチャラチャラしたイメージを持つ人もいますが、堀米選手の戦いぶりを見れば、心が強くなければできないと分かるはず。改めて、息子たちがこのスポーツを選んで良かったと思いました」

 パリ五輪では8月6日からパークの競技も予定されている。日本勢のさらなる活躍に、小さなスケーターたちも期待を高めている。【磯崎由美】

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