4月10日の広島戦でマウンドに集まる阪神の選手たち。マウンド広告は「KOBELCO」(右下)とある=阪神甲子園球場で、滝川大貴撮影

 今季からプロ野球・阪神の本拠地・阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)のマウンドに「KOBELCO」の文字が記されている。これは鉄鋼大手・神戸製鋼所(神戸市)が協賛したマウンド広告だ。開場100周年を迎える甲子園のマウンドに企業広告が掲出されるのは初めて。一般消費者との接点が少ない鉄鋼大手が、広告を出したのはなぜなのか。

 甲子園の黒土のマウンドに、サンゴ礁を再利用したラインパウダーで「KOBELCO」の文字が白く浮かび上がる。バックスクリーンからのテレビ中継カメラの画角に納まり、プロ野球中継で目にした人も多いだろう。

 KOBELCOは神戸製鋼所グループの統一ブランドで、グローバルに事業を展開する際の旗印となっている。同社によると、近年の業績の安定に伴い、昨年7月からテレビCMなどの広告宣伝を強化してきた。そして、その一環が今回のマウンド広告だった。関係者によると、契約年数は2年で協賛金は億単位。月ごとにロゴを変更できる。社名に限られ、今は「KOBELCO」と掲出されている。

若年層への認知拡大で「エントリー増」を

 同社の狙いは何なのか。広報担当者は「若年層への露出、認知を主眼に置いている。将来の人材不足のリスクを考えた上で広告宣伝をしっかりやっていこうという中で甲子園広告は良い媒体だとなった」と説明する。

 かつてはラグビーで日本選手権7連覇も果たすなど、抜群の知名度を誇る神戸製鋼所。だが、人材採用についてはメーカー特有の事情もあるようだ。広報担当者は「業界として昔よりメーカーを希望する人は減っています。事業所で採用する人も当社みたいな企業だと『3交代勤務がちょっときつい』というイメージがあり、総合職だけでなく大変(採用で)苦労し始めているのが実情です」。

 そこで、登場したのが甲子園マウンドの広告だった。阪神戦のテレビ中継を見る若者への訴求効果を狙い、社名やブランド名の認知度や信頼度を高め、採用活動時により多くの学生らにエントリーしてもらいたいという期待がある。いわば若者向けの「求人広告」なのだ。

バックスクリーンで「信頼」高めた例も

 同社は、社外調査も踏まえると認知度は地域や年代で異なり、「関西やそれ以外の地域で差があり、さらに年代によってもかなりギャップがあります。40代以上にはラグビー部などの影響でかなり認知度が高いですが、関西でも若年層はだいぶ下がります」(広報担当者)と認識している。そこで阪神人気にあやかる形となった。

 対象試合は2024年と25年シーズンの阪神球団主催のセ・リーグ公式戦と交流戦。阪神電鉄によると、23年に甲子園開催の阪神戦はレギュラーシーズンで62試合あった。NHKによる全国中継をはじめテレビの地上波での中継が61試合(録画放送含む)、BSでは21試合が放送された。他の媒体と比較検討し、神戸製鋼所は「甲子園のマウンド広告の露出効果」に期待する。

 また、神戸製鋼所は今回の広告を掲出するにあたり、先に甲子園に広告を出している企業にその効果を問い合わせたという。

 大手総合物流会社「山九」(東京都)は、甲子園でバックスクリーンの両サイドに黄色で「山九」と社名を掲出している。ほかにもソフトバンクや楽天の本拠地球場の計3カ所に広告を掲示している。甲子園で17年からバックスクリーンに掲示されると、会社のホームページへのアクセスが増えた。同社の広報担当者は「これを見て(会社を)知ったという新入社員がおり、親御さんもしっかりした会社なんだねと信頼が高まりました。採用は苦戦していますが、これがなかったらもっと大変だった。知るきっかけと(採用の)後押しになっています」。

 さて、神戸製鋼所のマウンド求人広告の効果はいかに。【荻野公一】

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