パリ五輪のボクシング女子66キロ級予選で、アルジェリア代表のイマネ・ヘリフ(右)との試合を途中棄権したイタリアのアンジェラ・カリニ=パリで2024年8月1日、AP

 パリ・オリンピックのボクシング女子66キロ級予選で1日、イタリア選手が開始わずか46秒で棄権し、会場にどよめきが起きた。対戦相手はアルジェリア代表のイマネ・ヘリフ。今大会では「性別」を巡り、出場の是非が議論されていた選手だ。それだけに、試合後は棄権の理由を聞こうと、取材エリアに大勢の報道陣が詰めかけた。

 ヘリフは東京五輪にも出場し、5位入賞を果たしている。だが、昨年3月にインドで開催された世界選手権で、初めて導入された性別検査により、男性ホルモンのテストステロンの値が基準値より高かったため不合格となり、決勝戦の出場権を剥奪された。この時の検査では、ほかに57キロ級の台湾代表、林郁婷(りん・いくてい)も失格となり、銅メダルを取り消された。

 だが、世界選手権を主催した国際ボクシング協会(IBA)は、組織運営などの問題を理由にパリ五輪を管轄する立場から外れた。五輪は国際オリンピック委員会(IOC)の管轄で開催され、世界選手権とは異なる出場基準が適用されたため、ヘリフや林の出場も認められた。

 こうした中、両選手の出場を巡り、SNS(ネット交流サービス)では「女子の試合に『男子選手』が出ればほかの選手が危険にさらされる」などといった内容の批判が相次いでいる。

 しかし、アルジェリア・オリンピック委員会は7月31日の声明で、こうした批判について「人格や尊厳に対する攻撃であり不公平だ」と非難。IOCのアダムス広報部長も1日の記者会見で「これらの女性たちは何年も女子選手の大会に出場してきている」と説明した。さらに、SNSには2人を「トランスジェンダー」だと誤って紹介している投稿もある中、「これはトランスジェンダーの問題ではない」と強調した。

 1日の試合でヘリフと対戦したイタリアのアンジェラ・カリニは棄権した後、相手との握手もしなかった。試合後、涙にまみれて報道陣の前に姿を現したカリニは「心が壊れた。これほど強いパンチは受けたことがなかった」と説明。鼻に激痛が走り、「健康のためにやめることにした」と理由を明かした。一方、ヘリフの出場の是非については「正しいとか間違っているとか言う立場にない」と評価を避け、「彼女には最後まで進んでほしい」と語った。【パリ金子淳】

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