体操男子個人総合を制し、岡慎之助(右)に抱きつく橋本大輝=ベルシー・アリーナで2024年7月31日、玉城達郎撮影

パリ・オリンピック 体操男子個人総合決勝(31日、ベルシー・アリーナ)

岡慎之助選手(20)=徳洲会 金メダル

 体操ニッポンの新しいヒーローがパリで花開いた。6種目で争う個人総合で優勝が決まった瞬間、岡慎之助の元に真っ先に駆け寄ったのは、連覇を逃して悔しいはずの橋本大輝だった。「新しい歴史が見られて幸せ。彼の努力と諦めなかった強さに本当に感動した」と前回王者。2人の見せた抱擁は、日本体操界のレベルの高さを物語っていた。

 岡にとって2歳上の橋本は常に意識する存在だった。最後に勝ったのは岡が中学生の頃。ジュニア時代は力が均衡していたが、その後は差が広がった。高校生で世界選手権に出場するなど順調に力を伸ばす橋本に対し、岡はけがに長く苦しんだ。「一緒に戦うとすごく楽しんで体操やっているなって」。先を行くライバルの姿をうらやましく思ったこともあった。

 それでも、高校1年で出場した世界ジュニア選手権は個人総合を制覇し、「日本の宝」と期待された。地道な努力を重ねながら、リハビリ期間中は足腰を強化。代表に選ばれなくても、特別強化指定選手として合宿に参加し、基礎や着地の技術を徹底的に学んだ。トップ選手の技に間近で触れた経験はその後の大きな財産となった。

 「橋本選手に勝ちたい。それが世界トップになること」。明確な道しるべとなるライバルの存在は日々の練習のモチベーションにつながった。それは年齢差こそあったが、内村航平さん(35)を追った橋本も同じだった。内村、橋本、岡と受け継がれたエースの系譜が日本の体操界を底上げする好循環を生んだ。

 岡は目標であり、ライバルでもあった橋本という高い壁を大舞台で越えた。「チャレンジ精神だけ忘れず、勝ち続けたい」

 切磋琢磨(せっさたくま)し、時に助け合う。最後は屈託なく抱き合う2人の笑顔は「キング・オブ・スポーツ(スポーツの王様)」を自任する体操の王者にふさわしい姿だった。【パリ角田直哉】

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