「〝ケ〟の字が勝ったら、お祝いにごちそうするよ。駅前のあの料理屋で」

「あんな高いとこ」

「うん。いくら飲んでもいい」

わーっと盛り上がったのを覚えている。1977年5月1日、サンケイスポーツ賞4歳牝馬特別のレース前である。

じつは、このレースの歴代成績を調べているうちに、サンケイスポーツという8文字のうち、すでに7文字は優勝馬の名前のなかに刻まれていることに、競馬風俗研究家の立川末広が気がついたのだ。残るは〝ケ〟だけ。

すぐにサンケイスポーツのデスクに立川末広が知らせた。この1977年のレースには、〝ケ〟の字を持つケイシルバーという馬が出ていた。それで、「勝ったらお祝いに-」という話になったのである。

注目のスタート。ケイシルバーは18頭立ての8番人気。先行タイプのケイシルバーにとって絶好のゼッケン1番をひいていた。

ロケットスタートを切ったケイシルバーは先頭。いったん3番手に下げ、快調な脚さばきで最終コーナーを回ったが、ハイペースだったため、先行5頭はケイシルバーを含めてすべて着外。「ケの字のお祝いは来年以降に」ということになった。

しかし、ケの字はなかなか勝てなかった。2000年を終了し【0・2・0・13】と、創設以来全敗。

2001年からレース名が、サンケイスポーツ賞フローラSという現行のものにかわったのだが、その2001年のこと。ケの字を持つオイワケヒカリ(5番人気)という馬が、好位から抜け出して、ついに8文字すべてが優勝。夜を徹しての宴会になった。ゆでた空豆が山で出た。大笑いしつつ飲んだ。

競馬好きの作家として知られる石川喬司さんが、「競馬というのは、レースはもちろんのことだが、その周辺で起きたことも、忘れがたい思い出として残っているものだ」とお書きになっている。「つらくて忘れがたい思い出はどうか少なからんことを」とも。同感の方は多いと思う。(競馬コラムニスト)

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