柔道男子66キロ級決勝、試合を決する技ありをブラジルのビリアン・リマから奪う阿部一二三(右)=シャンドマルス・アリーナで2024年7月28日、玉城達郎撮影

 パリ・オリンピック第3日は28日、男子66キロ級で東京五輪金メダルの阿部一二三選手(26)=パーク24=が2大会連続の金メダルを獲得した。この日は妹で東京五輪金メダルの阿部詩選手(24)=同=が2回戦で一本負けし、きょうだいでの五輪2連覇は逃した。早期敗退した妹の思いを背負い、兄は王者の矜持(きょうじ)を示した。

 日本より競技人口が多いフランスでは熱心なファンが敵、味方に関係なく大声援を送る。無観客の東京五輪では味わえなかった喜びを手にしたはずだったが、温かいエールは2人にとってほろ苦いものにもなった。

 五輪での優勝を宿命づけられているかのように、東京大会後も快進撃を続けた。世界選手権は2022、23年大会で2人とも2連覇を達成。全日本柔道連盟の方針で、大会1年以上前の23年6月に五輪代表に内定した。

 それぞれがさらなる飛躍へのモチベーションを見いだし続けてきた3年間だった。

 東京五輪以降、無敗を続けた一二三選手。競技への意欲が向く先を対戦相手ではなく、自らを研ぎ澄ますことに集中した。

 一二三選手は今、こう考えている。

 「柔道ってだんだんルールが複雑になっているけど、一番分かりやすいのって投げている姿だと思うんですよ。僕が追い求めているのは、まったく知らない人にも『すごいな』『いつ投げるんだろう?』とワクワクしてもらえる柔道です」

 日ごろ口にする言葉は「圧倒的に勝つ」。あくなき強さへの渇望が慢心を許さなかった。

 「オリンピックは生活の一部。自分の中にないのは考えられない」と、一二三選手は言う。それは詩選手も同じだったが、パリでは早期敗退という結末が待っていた。

 1回戦を圧勝し、2回戦も主導権を握っていた。ただ「もう1個(技を)取らないと、と急いでいた」中で、しゃにむに攻めに出たディヨラ・ケルディヨロワ選手(ウズベキスタン)に一本を奪われた。

 詩選手が背中からたたきつけられた光景は、近年の強さを考えれば信じがたいものだ。「あまり何も考えられず、『負けたな』と」。試合から約4時間後に取材に応じた詩選手は、ようやく状況を整理した。

 柔道が盛んなフランスの人々は、それでも「前五輪女王」への敬意は忘れない。泣きじゃくる彼女を包んだのは、大きな「ウタ!」コール。五輪が「本当に素晴らしい舞台だな」と改めて実感したが、傷心の詩選手にはその声が切なく胸に響いた。

 パリに駆けつけた父浩二さん、母愛さんからはねぎらいの言葉と同時に「(一二三選手を)応援しよう」と声を掛けられたという詩選手。妹もまた、心の揺れを静め、兄の変わらぬ雄姿を見届けた。

 そんな一二三選手は今大会も、豪快な投げを随所で披露した。「相手を投げたときの足元から鳥肌が立つ感覚というか、そういう経験をしてほしい」。そして、こうも思う。「僕の姿を五輪で見て、『キラキラしているな』と思ってもらいたい」

 詩選手もまた、前を向くきっかけを得ただろうか。【パリ岩壁峻】

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