猛烈な暑さと疲労がエースを追い詰めていた。何度も何度もユニホームの袖で拭っても額から落ちる汗は止まらない。顔面は紅潮し、肩で息をした。  五回無死2、3塁。5番打者への2球目を投じた瞬間、快音が響いた。白球がゆっくりと弧を描き左翼席に吸い込まれていく。「打ったバッターがすごい」。思わず白い歯がこぼれた。今大会で投じた519球目。内角低めに決めた、こん身のカットボールだった。  春の都大会で強豪相手に好投し、一気に注目を集めた。プロのスカウトたちも見に来るようになったが、やることは変わらなかった。「自分の投球で仲間を甲子園に連れて行く」と、淡々と投げ込みを続けた。  酷暑の大会は、ほぼ1人で投げ抜いた。連戦連投で体が悲鳴を上げていたのは、分かっていた。  この日は序盤から制球が定まらずにボールが先行した。マウンド上で何度も立ち尽くし、首を傾げた。  とにかく、試合の途中でマウンドを降りたくなかった。打たれても打たれてもベンチは見ないで、打者と向き合い続けた。「自分は背番号1を付けたエースだ」と言い聞かせ、疲労した脚に力を込めて踏ん張った。  夏は終わった。「自分のせいでこんな負け方をして信じてくれた仲間たちに申し訳ない」。スタンドへのあいさつを終えると、膝から崩れ落ちた。とめどなく落ちる涙。何度も何度もユニホームの袖で拭った。


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