パリ五輪の開会式でパレードする船の上で日の丸を掲げる日本の旗手、半井重幸選手=パリで2024年7月26日、ロイター

 パリ・オリンピックの開会式で日本選手団の旗手の一人は、ブレイキン男子の半井(なからい)重幸選手(22)=ダンサー名・SHIGEKIX、第一生命保険。近代五輪の「父」とされるピエール・ド・クーベルタン男爵の古里で開かれる大会で、半井選手はブレイキンで培った精神を多くの人に発信したいと願う。

 開会式はセーヌ川をボートで下り行進する、革新的な取り組み。約400人の日本選手団の先頭に立ち国旗を掲げる半井選手は「雨が降ってくるというハプニングさえもドラマチックで、一つのエンターテインメントとして、特別感が出た」。歴史の重み、新しい時代への高揚感を感じながら、大役を全うした。

 たくさんの個性、価値観に触れ、自由への思いが育まれた。姉の影響を受けて7歳で競技を始めると、毎日のように地元の広場を訪れて練習に取り組んだ。性別、年齢、国籍を超えて、ひたすらに格好良さを追い求めた日々。その中で世界一とも評されるランダムにかかる音楽と即興の踊りをシンクロさせる「音ハメ」の技術は磨かれていった。

 何をやっても正解――。世界選手権など国際舞台で実績を重ねていった半井選手は、ブレイキンが持つカルチャーや魅力を、より幅広く発信したいと思うようになった。「自分の選択や道のり、スタイル、アイデンティティーなど信じてきたことを大事にしたい。自分の自己満足が、人にとって輝いて見えることほど素晴らしいものはない」。五輪に採用されたことで競技性の側面が強まったが、得点や勝敗にこだわらない「自由な表現」への強い思いは、変わらず根付くブレイキン固有の理念だ。

 ブレイキンは1970年代、米ニューヨークの貧困地区でギャングが暴力の代わりにダンスで対決したのが始まりと言われる。ロシアによるウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザ地区で続く戦闘など、緊迫した国際情勢の中で迎えたパリ五輪。「平和」を競技のルーツに持つブレイキンが伝えるメッセージは大きい。

 半井選手は「五輪は一人一人の(選手の)人生、ROAD TO PARISの歩みの先に迎えた舞台。たくさんの方が楽しんでくださると思うけど、その中で僕が一番楽しんでやろう、という気持ち」と語る。メダルや勝敗の重圧とは無縁。自由な自己表現を最大の喜びにする新時代のトップランナーが、花の都で輝く。【パリ角田直哉】

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