ラケットを手に握手を交わす福井烈さん(右)と杉村太蔵さん=東京都港区の高輪テニスセンターで2024年3月6日、手塚耕一郎撮影

 日本テニス協会公認大会で、国内最古のテニストーナメント「第102回毎日テニス選手権(愛称:毎トー)」(毎日新聞社主催、テニスユニバース特別協賛)が5月、開幕する。昨年は9歳から93歳まで幅広い世代が出場するなど生涯スポーツとして長く親しまれてきた毎トー。25年ぶりの公式戦として、毎トーベテランの部に出場した昨年に続き、今大会も出場するテレビコメンテーターの杉村太蔵さん(44)と、テニス界のレジェンドの福井烈さん(66)がテニスや毎トーの魅力を語った。【聞き手・杉本修作】

 杉村 福井さんとお話をする機会をもらって本当にうれしいです。小学5年のとき、全国小学生テニス選手権大会に出場しました。そこで、福井さんがエキシビションマッチをされました。自分の試合より、福井さんの試合を見るのが楽しみで、北海道から上京しました。真剣勝負で、見たこともないスピード感のあるラリーに圧倒されたのを覚えています。そんな福井さんが66歳になった今も変わらずテニスをしている。長くテニスを続ける秘訣(ひけつ)はなんですか。

 福井 仲間がいることですね。仲良くするだけじゃなく競い合う。テニス教室で全国を回っていますが、いつも「いい仲間を作りましょう」と言っています。試合に勝つより負けたときにより刺激があります。次は勝ちたいと思わせてくれる。刺激を与えてくれるライバルがいることが大切です。

 杉村 昨年、毎トーのベテラン40歳以上のカテゴリーに出場しました。最初は、出ることに意義がある、熱中症にならなければいいなという感覚だったのですが、1回戦で負けて想像以上に悔しかった。だから今年も挑戦しようと思って、練習を続けています。妻からは「今年も1回戦で負けたら恥ずかしいわよ」と言われて「確かにそうだな」と不安になったりします。

 でも大会に出ることってすごく張り合いがあるんですよ。だから昔、全日本ジュニアやインターハイに出た経験のある選手がどんどん毎トーにチャレンジしてくれたらいいと思います。

 福井 杉村さんのユーチューブを見ています。攻撃的で思い切ったテニスをしていますね。(昨年の毎トーの)試合も見ましたが、四国チャンピオンに最終セットまでもつれる大接戦でした。あとはチャンスボールをしっかりポイントにする、凡ミスをなくすことだけだと思います。ただ、優勝するには、技術だけでは無理です。連戦を勝ち抜く体力も求められます。簡単なことではありませんが、ぜひ優勝目指して頑張ってほしい。

 ――福井さんは2021年東京五輪の選手団長などを務め他競技の選手とも交流があると思います。そこで感じたことはありますか。

 福井 テニスは、五輪以外にも4大大会があります。でも、競技によっては4年間、五輪だけを目指して努力する選手もいる。五輪に出場しても、わずか数分で終わる種目もあります。

 杉村 100メートル走だったら何秒の世界ですね。

テニスの魅力を語る福井烈さん=東京都港区の高輪テニスセンターで2024年3月6日、手塚耕一郎撮影

 福井 だから他競技の人と話すと非常に学びがあります。ある格闘技系の選手が、試合当日にホテルを出るとき、「今日は必ず生きて帰ってくる」と考えて出発するそうです。「勝って帰ってくる」という思いはありますが、「生きて帰ってくる」と考えたことはありませんでした。命がけでスポーツに取り組む選手の存在を知り、心を動かされました。

 ――対談のテーマは「生涯スポーツ」。毎トーもすべての世代に親しまれる大会づくりを目指しています。

 福井 私も一般の部に出場させていただきましたが、当時は、全日本選手権と並んで重要な大会でした。歴史の古い大会ですし、新聞紙面にも取り上げてもらえる。そして全世代が参加しているというのは非常に価値があると思います。ぜひ、続けてほしい。

 杉村 福井さんのように優勝はしていませんが、私も高校生の頃、毎トーの一般の部に出場しました。今の毎トーに思うのは、もう少し選手が交流する機会を設けてもらえればいいなと。試合が終わって帰るだけでは寂しい。例えば、歴代の優勝選手を集めてパーティーをするのはどうか。実現したら私が司会をします。

テニスへの思いを語る杉村太蔵さん=東京都港区の高輪テニスセンターで2024年3月6日、手塚耕一郎撮影

 ――今後の目標について教えてください。

 杉村 テニスを通じて、地方の活性化ができないかと考えています。別府大分毎日マラソンのような市民マラソン大会はありますが、テニスでも同じような大会を開きたい。そこで、今年12月に愛媛県で、男女混合ダブルスのテニス大会を開く予定です。ペアの年齢が合計80歳以上になるというルールにしたので、祖父と孫、親子などいろんな組み合わせができます。開催にあたって地元のかつお節メーカーのご協力をいただけることになりました。地元の企業と一体となって大会を盛り上げていきたい。

 また将来は、テニスを通じた国際交流も目指したい。例えば、国籍の異なるペアでの出場を要件にするのも一つの案です。

 福井 それは面白いですね。私の目標はスポーツの魅力を伝えていくことです。社会でどんどん効率化が進む中で、スポーツは偶発性、不条理と隣り合わせです。頑張ったら勝てるわけではないし、正解に真っすぐたどり着けるわけでもない。でも、解決が困難なところが楽しいと思える。私の世代の役割は、そのことを次の世代に伝えていくことだと思います。そして多くの人がスポーツを始めるきっかけがつくれれば。それがテニスであればいいですね。

 テニスは、他のスポーツと比較しても、長寿になるというデータがあります。適度な運動と仲間との社交性が要因だと分析されています。イベントなどを通じてどんどんテニスプレーヤーを増やしていきたいですね。先ほど、杉村さんがおっしゃった愛媛県での大会も期待しています。

 杉村 ありがとうございます。まずは次の毎トーで優勝できるようがんばります。

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