サッカーJリーグ、バスケットボールBリーグなどの影響でプロスポーツの裾野が全国に広がり、地域密着型のクラブが各地に設立されている。だが経営規模は成長途上で人手は限られる。そんな中で、Bリーグ1部(B1)昇格を目指すB2東地区の福島ファイヤーボンズ(FB、福島県郡山市)は、あるITサービスに事業拡大の活路を見いだしている。
FBは2020年3月、組織コンサルタント会社「識学」(東京)が運営会社「福島スポーツエンタテインメント」の親会社となり経営再建に乗り出した。識学から派遣され副社長、21年に社長に就任した西田創(つくる)さん(41)は東福岡高で全国高校ラグビー準優勝。立教大、トップリーグ(現リーグワン)NECでも活躍した元ラガーマンだ。
当初の社員は6人だったが、西田さんらは「まずは部署ごとの専門性を高めるために人材に先行投資しよう」と社員を積極的に採用することから始め、現在は36人まで増強した。そのかいあって、スポンサー企業は当初の178社から700社超と約4倍に。売上高は新型コロナウイルス流行前の18~19年シーズンの2・1億円から昨季は8・1億円を見込み、B1クラブと比べて遜色のない経営規模にまで成長した。
ただ、西田さんは「自分がイメージしているスピード感での人材採用はできていない」と明かす。スポーツクラブの人件費は通常、まずは「至上命題は勝利」と現場の選手や指導陣に費やす。FBはそれに加えて法人営業部門を強化してきたが「人手が足りない中では後回しになるが本当は必要」というウェブやグラフィックのデザイン、動画制作、試合会場の運営などブランドイメージを手掛ける人材に乏しかった。専門人材は首都圏に偏在し、地方は人手不足という事情も重なる。
そこで目を付けたのが、副業を希望する人材と企業などをネット上でマッチングするサービス「複業クラウド」だった。ITベンチャー「アナザーワークス」(東京)が19年に始め、現在約8万人が登録している。これを22年1月に導入し、試合会場を運営するゲームオペレーターやウェブデザイナーを募集すると複数の応募があった。ゲームオペレーターには工藤直之さん(32)を採用できた。
工藤さんは「バスケの街」秋田県能代市出身。仙台市の人材会社に勤務していたが「スポーツビジネスに携わりたいと漠然と思って、サッカーなどのクラブに経営企画を持ち込んでいた」という。そんな折に複業クラウドでFBの募集を知った。平日は仙台で勤務し、週末に試合会場でイベントや演出を手伝ってみると「実際に現場で携わったことで、エンタメとしての面白さに魅了されて」半年後に正社員となった。
FBは複業クラウドを通じて複数人を採用しており、現在もマスコットを演じる着ぐるみアクターを複業クラウドで募集している。工藤さんはチケット販売やファンクラブ運営などを手掛けるコンシューマーセールスチームの課長を務め「スポーツビジネスは公共性が高く、地域のために働き、地域に応援されて成立する。責任の大きさを含めて醍醐味を感じます」と語る。
25年春にはホームの宝来屋郡山総合体育館で改修工事が終わり、B1基準の5000人収容となる。悲願のB1昇格を目指す西田さんは「複業クラウドは地方クラブでは採用が難しかった多種多様な経験や年齢層の人材にリーチでき、効果は大きかった。取り組めることが増えたのでB1を目指して一気に事業を拡大していきたい」と意欲を新たにする。【錦織祐一】
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