7月7日に開幕したビーチサッカーの九州リーグ。奇しくも熊本勢同士の対決となった試合に、特別な思いで臨む選手がいた。重い脳腫瘍から復活した中原勇貴選手のビーチサッカーにかける情熱と新たな決断を追った。

重い脳腫瘍で余命宣告された中原選手

ビーチサッカーはその名の通り砂浜でプレーするサッカー。ゴールキーパーを含めた1チーム5人で戦い、オーバーヘッドキックなどアクロバティックなプレーが特徴だ。ブラジルやヨーロッパではいわゆるフルコートのサッカーと同じくらいの人気を誇る。

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熊本・菊陽町の『アヴェルダージ熊本』は現役日本代表も在籍する強豪チームだ。このアヴェルダージでプレーしてきた元日本代表の中原勇貴選手は、重い脳腫瘍で余命5年から10年と宣告されながらも、手術とリハビリを乗り越え現役復帰を果たした。

全国大会でゴールを挙げるなど目覚ましい回復を見せたが、心の中にはある思いがくすぶっていた。これまで中原選手は幼馴染でもある坂田淳監督と二人三脚でチームを引っ張ってきたが、脳腫瘍を取り除く手術の後遺症で、中原選手の持久力が低下。アヴェルダージの戦術では一人一人に多くの運動量を要求するため、病み上がりの中原選手は出場機会が限られるようになっていた。

フル出場の機会を探りレンタル移籍へ

アヴェルダージ熊本の坂田監督は中原選手に「今のビーチ界でいうと、レンタル移籍っていう形で。完全にレンタル先に行くっていうよりは、大会ごとに考えて」などと話し、体調面を気遣いながら起用法を探る坂田監督と、フル出場を目指す中原選手の間で幾度となく話し合いが行われた。

アヴェルダージ熊本の中原選手は「(多くの人が)自分の病気のことを知って、遠いところまで応援しに来てくれてたけど。やっぱりその人たちの前で試合に出られないっていうのが一番きつかったし。試合に出られるようなチームに移籍したいなっていう気持ちはあります」と話した。

2人で悩んだ末、坂田監督が提案したのが、熊本県内にある「エスターテ芦北」へのレンタル移籍だ。中原選手は慣れ親しんだ青のユニフォームにいったん別れを告げ、新天地での完全復活を目指すことを決意した。

開幕節の相手は奇しくもアヴェルダージ

ビーチサッカー九州リーグ開幕節は、アヴェルダージ熊本対エスターテ芦北という奇しくも熊本勢対決となった。

中原選手このめぐり合わせに「この九州リーグの開幕戦で、熊本でアヴェルダージと試合ができるって、こんなすごいことはないと思うんで。(アヴェルダージを)倒します」と話した。

開始早々、相手をかわした中原が決定的なパスを前線へ。ここはキーパーに抑えられるが、序盤から司令塔としての存在感を発揮する。しかし先制したのはアヴェルダージ。2024年から本格的にビーチサッカーを始めた福山隼太が右足で蹴り込んだ。対するエスターテ、中原のループシュートは惜しくもクロスバーに阻まれた。

第2ピリオドもアヴェルダージペースで、ストライカーの大田誠人がこのジャンピングボレーで追加点をゲット。さらに浮き球パスに反応すると相手DFを振り切ってのダイビングヘッドでゴールを奪い、一気に突き放しにかかる。

3点を追いかけるエスターテ芦北も意地を見せた。キックインで中原がボールをセットすると、10番を背負った白坂星也がダイレクトで蹴り込む豪快なシュートで1点を返した。

守備でも体を張って、相手の攻撃の芽を摘んでいた中原はしかし徐々に疲労の色が。体力の限界が近づく中、懸命にプレーを続ける。時には前線に飛び出し、終盤には果敢にボレーシュートを放つが、元チームメイトの宮田政宗が決死のセーブでゴールを許さない。

真夏の開幕戦にふさわしい熱い戦いは8対2でアヴェルダージ熊本が勝利をおさめた。

家族と仲間に見守られ新天地で挑戦

戦い終え、自身の希望通りほぼフル出場を果たした中原選手のその表情には、満足感と悔しさが入り混じっていた。

中原選手は「最初の(シュート)とか決まったと思ったんすけどね~。充実してました、めっちゃ。なんか今までは一歩下がって試合に入ってたりとかも、正直あったんですけど。何なら崩せるシーンもちょいちょいあって。あと(フィニッシュが)決まればっていうところもけっこうあったんで。まだこれからも伸びしろのあるチームかなと思います」と話した。

開幕戦には妻・舞香さんと生まれたばかりの長男・都禾(いちか)くんも見に来ていて、舞香さんは「産んで育ててる間はなかなか試合を観に行けなかったから。久しぶりに観られて楽しかったし。私は本人の意思を尊重してるので楽しくやれるところ(チーム)が一番かなと思って見守ってるだけかな、本当に」と話した。

家族、そして仲間に見守られながら新天地で全国大会を目指す中原勇貴。ビーチサッカー選手としてどこまで行けるのか、戦いの日々は続いていく。

(テレビ熊本)

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