7日に開幕した第106回全国高校野球選手権奈良大会の開会式で、車椅子の野球部員が入場行進した。五條高校の阪本勇斗選手(2年)で、背番号は16。試合ではスタンドに入る唯一の選手として同校の応援を引っ張る存在だ。
下市町出身。生後3カ月で筋肉が衰える難病と診断され、小学5年で歩行困難になった。このため野球をプレーした経験はないが、「昔から野球を見ることが大好き」だった。2018年には本大会の星陵―済美戦を兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で観戦。応援の音圧に「テレビで見るのとは全然違う」と圧倒された。今では県予選を分析しながら見るほどの高校野球ファンだ。今年も甲子園に出かける予定だが、「なかなかチケットが取れない」と父の祐人(まさと)さん(63)は笑う。
2人の姉が高校の野球部マネジャーを務めたことにも触発され、中学校で野球部に入った。中学3年だった22年には奈良大会の開会式で車椅子姿で始球式を投げる大役を担い、「高校でも野球部に」と決めた。それから2年。強い日差しで映える夢の舞台に立った。
入場行進で車椅子を押した同級生部員の小田怜弥選手は「試合でも練習でも、誰よりもしっかり声を出してくれる」と太鼓判を押す。ボール磨きやスコアづけなども担い、部に欠かせない存在だ。駒井彰監督は「彼は『声を出さなきゃ』などといった使命感からやっているのではない。自然に声が出ている。本当に野球が好きなんだ」と語る。
この日の開幕戦でも精いっぱいの声援を送った。試合前には母の真奈美さん(51)と必勝祈願のお守りも作ったが、チームは惜しくも敗れた。「悔しいの一言」と言葉少なだったが、その後、「来年も、誰よりも声を出してチームを引っ張っていける存在になりたい」と誓った。
県高野連によると、車椅子の選手が入場行進するのは全国でも珍しい。駒井監督が高野連に打診し、本人の体調やグラウンド状況を考えながら実現させたという。【田辺泰裕】
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