命を落としかねないリスクのある環境で競技をしている――。パリ・オリンピック開幕を前に、英米豪の研究機関やスポーツ関連団体などが、地球温暖化による猛暑下での競技実施に警鐘を鳴らす報告書「火の五輪」を公表した。公表に合わせて元陸上選手の為末大さん(46)らが3日、オンラインで記者会見し、スポーツ界として気候変動問題に向き合う必要性を訴えた。
76年間で熱波50回
報告書によると、フランスの年平均気温は前回パリで五輪が開催された1924年以来、1・9度上昇。パリでは熱波が1947~2023年の間に50回発生しており、近年は気候変動の影響でその頻度と激しさが拡大している。
報告書は、フランスでは03年の熱波で約1万4000人以上が死亡したとされ、同じ季節に五輪が開催されることへの懸念を示した。そのうえで、暑さを避けられるような大会日程の設定、選手やボランティアら大会に関わる人を守る対策を提案。選手が気候変動についてファンを啓発すること、気候変動の原因となっている化石燃料企業とのスポンサー関係を見直すことなども求めている。
熱中症の後遺症が奪った選手の夢
会見には、報告書に経験談を寄せた競歩の鈴木雄介選手(36)も出席した。
鈴木選手は19年9月、猛暑のドーハで開催された世界選手権の男子50キロ競歩で優勝し、東京五輪の代表に内定したが、その後体調が回復せず、五輪出場を辞退した。
ドーハでは深夜に競技が行われたが、気温は30度を超えていたという。「30~40キロあたりで寒気を感じた。ゴールはできたけれど、意識はボワーッとした感じだった」。鈴木選手は報告書で、長引く熱中症の後遺症が五輪出場の夢を阻み、大きな打撃を受けたと告白している。
東京五輪出場の選手も暑さ訴え
報告書には、東京五輪に出場したアスリートの経験談も多数盛り込まれた。テニス男子ダブルスで銅メダルを獲得したマーカス・ダニエル選手は「脱水症状、頭痛、倦怠(けんたい)感が常にあった。文字通り卵が焼けるような状況でプレーしなければならないのはスポーツ本来の姿でない」と訴えた。
為末さんは会見で、環境の変化を肌身に感じているアスリートが危険をいち早く知らせる「坑道のカナリア」のような役割を果たせると指摘。報告書が化石燃料企業とのスポンサー関係を見直すことを求めていることについても「大きな話だが(アスリートが)スポーツだけをすることから、あるべき社会を作っていくことにかじを切るべきだと思う」と語った。【大野友嘉子】
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