陸上日本選手権(28日、新潟・デンカビッグスワンスタジアム)
女子1500メートル優勝=田中希実(ニューバランス、4分1秒44)
ラスト1周を告げる鐘は、田中希実が自力でパリへの扉をこじ開けるための合図になった。最後の直線は一気のスパートでフィニッシュして参加標準記録(4分2秒50)を突破し、この種目での五輪切符を獲得した。
今大会、パリ・オリンピックの参加標準記録を突破済みの有力選手が相次いで欠場する一方、5000メートルの代表入りを決めている田中は独自の考えで調整の場として臨んでいる。この日決勝のあった1500メートルを含め、4日間で3種目最大5レースを走る予定だ。ハードな挑戦には、先を見据えた狙いがあった。
もともと、田中の飛躍の礎となったのは1500メートルだ。2021年の東京五輪で日本選手として初出場し、8位入賞の快挙を果たした。
田中は23年にスポーツ用品メーカーのニューバランスをスポンサーに得てプロ転向し、ケニアで繰り返し合宿を行った。「東京五輪の時より良い練習が積めている」と語る恵まれた環境を生かし、5000メートルでも台頭。同年の世界選手権ブダペスト大会で日本勢26年ぶりに8位入賞した。
しかし、東京五輪後、1500メートルでは思うような結果を残せなくなった。世界選手権では22、23年と準決勝敗退した。東京五輪でマークした日本記録(3分59秒19)も3年間、超えられないままだ。終盤の競り合いで思うような走りができずにいる。
どうすれば、心の「もや」を晴らせるのか。
「自分の中では(再び)4分を切れる感覚はあるけれど、何となく注意力が散漫というか……。集中する『ゾーン』にまだ入れていない。見えない壁に当たっているんじゃないかな、と」
達した結論は「ただただレースで(良い)タイムを出したり、勝ったりする経験(を積む)しかない」というシンプルなものだった。
今大会、現状打破に向け、勝負をかける1500メートルと5000メートルに加え、昨季はレース出場を絞り気味にしていた800メートルを加えた3種目に臨むことに決めた。各種目の決勝の日程がばらけたことも挑戦を後押しした。父の健智(かつとし)コーチは「800メートルも入れて3冠を目指すタフさを持たせたい。(日本選手権で)裏付けた自信で、五輪を迎えたいんです」と語る。
東京五輪後の3年間は、健智さんいわく「修行しているような」日々だった。
「修行」が一つ形となり、田中は「期限内に(参加標準記録を)切れたし、堂々と(パリに)乗り込める」。大舞台での好成績へ手応えをつかんだ。【岩壁峻】
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