剣道の大学日本一を個人戦で争う第58回全日本女子学生剣道選手権大会は29日、東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで開かれる。7月4日からイタリア・ミラノで開催される世界選手権で女子日本代表を率いる竹中健太郎監督(鹿屋体育大教授、剣道教士八段)に女子の見どころを聞くと、「4年生」と「1年生」をキーワードに挙げた。【構成・浅妻博之】
法大・水川「出て良し、引いて良し」
世界選手権の代表に選ばれた女子選手10人のうち、大学生は2人。その一人が水川晴奈選手(法政大4年)だ。全日本女子学生選手権は1、2年生の時に史上5人目となる2連覇を達成し、今大会は2年ぶり3回目の頂点を見据える。
「水川選手は攻撃力が高く技も多彩なので、学生剣道の中で力は抜けていると思っています。出て良し、引いて良し、仕掛けて良し、応じて良し。守って相手の隙(すき)やミスを狙っていくのではなく、自ら打突の機会を探し求めていく剣風なので、見ていてすごく面白い。可能性をすごく感じます。調整の充実ぶりがうかがえ、優勝候補です。ただ、彼女にもプレッシャーはあるでしょうからトントン拍子は難しい。世界選手権の監督という立場からすれば、この後に大一番を控えているので『全日本で優勝して勢いをつけてイタリアへ』と期待しています」
水川選手は史上初の3連覇を狙った昨年、まさかの2回戦敗退だった。
「いろんな技ができてしまうので、逆に打たれる可能性もでてきます。個人戦に強い選手は技の種類が多くなくても、自分の形になるまで我慢して戦い続けるが、水川選手は強引にでも守りをこじあけて打つタイプ。その分隙も生まれて、カウンターをもらいやすくなります。昨年負けた環太平洋大の高木(智紗)選手の時も強引に行きすぎてやられてしまったように見えた。ボクシングはカウンターをもらっても倒れなければいいが、剣道は『一本』になってしまう。攻撃的な選手ほど制限時間内に一本がほしくなります」
「大学で地力」逸材そろう4年生
今の4年生は、1年生の時から結果が出た選手が多い。レベルの高さが際立った世代とも言われている。
「確かにレベルは高いですが、高校時代を振り返ってもこの学年にすごく力があったわけではなかったと思います。大学剣道で結果が出た学年です。水川選手もそうですし、筑波大の笠(りゅう、日向子)選手も全日本で3年連続3位に入っています。高校3年生の時は新型コロナウイルスの影響でインターハイ(全国高校総体)が中止となった世代なので、活躍の場がなくて実力が埋もれていたのかもしれません。インターハイなどの大会がなければ力はつかないはずですが、その分大学に入って稽古(けいこ)をしっかりつんで地力をつけたのだと思います」
特に筑波大の4年生には高校トップクラスがそろっている。
「筑波大は岩本(瑚々)、古川(寛華)、斎藤(とも)の3選手は高校時代にトップクラスの選手でした。中央大の小川(真英)選手も力があります。小川選手と水川選手はトーナメントで同じ山にいるので、勝ち上がって対戦することになれば面白いと思います。鹿屋体育大の峯松(加奈)選手も下級生の頃から団体戦で活躍しているので、力はあります」
下級生にも上位に割って入りそうな逸材は多い。
「別府大の小中原(栄華)選手は昨年のインターハイで準優勝し、小中原選手を破って優勝したのが明治大の門田(もんでん、理佳)選手です。筑波大には5月の関東女子学生選手権で8強入りした五十嵐(和奏)選手がおり、中央大の村田(結依)選手にも注目しています。1年生ですが、十分に勝ち上がる可能性を秘めていると思います」
出場逃した前回女王、世界選手権に照準
世界選手権のメンバーの一人で前回王者の川合(芳奈)選手は連覇の期待が高かったが、関東女子学生で勝ち上がれずに出場権を逃した。
「ちょっと寂しさはありますが、全日本王者が地方大会で負けるのは男女に限らず剣道ではあることです。ただ、川合選手は水川選手と並んで学生剣道の中で実力は抜けていたと思っていただけに驚きもありました。気持ちの面で大丈夫かなと思っていましたが、6月の世界選手権メンバーの強化練習では完全に吹っ切れている姿を見たので心配はしていません。川合選手には『学生選手権よりも大事な試合に向かうということを忘れるなよ』と常々言ってきました。代表に選出された以上は、世界選手権を一つのピークにもっていくのは絶対的な使命ですから。本人も『頑張ります』と言っていました」
実力者ぞろいの4年生に新鋭がどう立ち向かっていくのかが見どころになる。
「トーナメントは水川選手を中心とした4年生の実力者が中心となるでしょう。この4年生たちを倒すような新しい力が出てくるのも楽しみにしています」
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