プロ指名漏れの悔しさを晴らすような活躍ぶりである。広陵高(広島)時代に長打力で甲子園を沸かせた大阪商業大1年の真鍋慧(けいた)選手は、大学野球でも入学早々から打力で見せた。その鍵は「脱力打法」にあった。
4試合目で特大の一発
つわものぞろいの大学生に交じっても、身長190センチの体格がひときわ目立つ。「高校よりもピッチャーの球速が速いし、変化球の精度も高い。まだまだ練習しないといけない」。一つ上のステージに立ち、真鍋選手の引き締まった表情からは充実ぶりがうかがえる。
大商大が加盟する関西六大学野球の春季リーグ戦で、高校通算60本以上の本塁打を量産した打力をいきなり披露した。4月6日の開幕戦で「2番・指名打者」で先発出場を果たすと、先制打を含む2安打2打点と勝利に貢献。14日にあった龍谷大との試合では、出場4試合目にして「ほっともっとフィールド神戸」の右翼席中段に飛び込む特大の一発を放ってみせた。
リーグ戦は10試合で打率3割3分3厘、1本塁打、9打点と申し分ない成績で締めくくり、新リーグ発足以降で初めてとなる5季連続優勝に貢献。指名打者のリーグベストナインにも堂々と選ばれた。
大商大といえばプロ選手を輩出し、春季リーグ戦では26回目の優勝を果たした大学野球の名門校だ。バットは高校野球の金属製から飛びにくい木製に変わるため、対応力が注目されたが、真鍋選手は新たな取り組みで適応した。
「一番振りやすいスイング」
高校時代との変化ですぐわかるのが、打席での構えだ。顔の近くで構えていたグリップの位置を肩の辺りまで下げ、すり足に近かった右足も少し上げるようにした。「自分が一番振りやすいスイングを求めた形」と、昨夏の甲子園後から高校卒業までに独学で打撃フォームを見つけた。力んでしまうとスイングが鈍くなった経験から、極力無駄な力を省いて振り抜く感覚を身につけた。まさに「脱力打法」だ。守備も足の速さを生かすため内野手から中堅手にコンバートされ、投打で「ニュースタイル」を実現している。
真鍋選手の打撃のすごさはどこにあるのか。大商大の富山陽一監督は「(リーグ戦前の)オープン戦からやはり打球が違った。落ちてこない。どこまでというくらい飛ばしていた」という。さらに「チャンスに強い。見ていても楽しめる」と魅力を語る。
真鍋選手がプロ注目の左の大砲として名をはせたのは、高校1年の秋ごろだった。広陵高の「4番」として快音を連発し、甲子園で大きな注目を集めるようになった。同学年の同じ左のスラッガーで、花巻東高(岩手)の佐々木麟太郎選手(米スタンフォード大)、九州国際大付高(福岡)の佐倉俠史朗選手(ソフトバンク育成)、大阪桐蔭高の左腕・前田悠伍投手(ソフトバンク)とともに「四天王」と呼ばれた。
もちろん高校屈指の打力は「プロ注目」だった。3年生の春ごろにはプロ志望届を提出することを決意していた。注目の高さから高校の一室には大勢の報道陣が詰めかけたが、ドラフト会議での結果は指名漏れだった。
もともと決めていたことがあった。「3位以上で名前が呼ばれなければ大学に進学する」。夢はかなわず4位の指名が終わった時点で記者会見場を後にした。「(これから)頑張るしかないなって。それしか考えていないです」。指名漏れの悔しさを顔に出そうとしない姿は、すぐに次のステージを見据えているようだった。
順位縛りは「自分から」
4位以下で指名される可能性があったが、真鍋選手は順位に縛りをかけた当時の心境について、少しずつ記憶を呼び起こしながらこう明かした。
「(順位縛りを決めたのは)ほんま覚えてないんすけど……どうやったんかな。でも、自分から言ったんだと思います。上位で(プロに)入るということは、そうやって評価してくれているということなので。そういうことです」
さらに「プロに行くからにはそれぐらい評価されたいということか」という質問には、「そうです」ときっぱり答えた。短い言葉には、厳しいプロの世界で長く野球を続けていきたい覚悟がにじんだ。
大商大には広陵の3学年先輩で、今秋のドラフト有力候補に名前が挙がる渡部聖弥選手(4年)がいる。下宿先が同じため、試合から帰宅する時などの移動では、渡部選手が運転する車の助手席に真鍋選手が座る。そんな先輩に真鍋選手は「すごく優しくしてもらっています」と感謝する。普段から見ている渡部選手は鳴り物入りで入ってきた後輩の心中をこう察した。
「真鍋は高校の時以上に背負っているものがあると思う。『あと4年でプロに行かないと』と思うなら、そのプレッシャーは甲子園以上じゃないですか」
大商大は全日本大学野球選手権に出場し、10日の東京ドームでの開幕試合に登場する。真鍋選手にとっては、入学からわずか2カ月での大学最高峰の舞台となる。「(指名漏れの日は)ずっと心の中には置いてますし、忘れないようにしています。もう本当に頑張るしかないので」。プロ入りの夢を実現するための厳しい4年間が始まった。【吉川雄飛】
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